一応。

 白鳥の王子様役で、バレーの経験があるそうな、彼に。

 きちんと『椿姫』の相手役のやり方を教える時間なんて、なかったけれども。

 シェリーに、舞台で使えそうな服を持って来てもらい。

 直斗に扉代わりの木枠の前で、不機嫌そうな顔で、堂々と立っていることと。

 他に、ちょっとした段取りを教える時間くらいは、あった。

 女役の僕は、怒っているかつての恋人役の直斗の気を引こうとしているのだけども。

 相手役が『子供の王子様』になったおかげで。

 僕が、真剣に踊れば踊るほど、可笑しいみたいだ。

 見るヒトの下半身を刺激するはずのエロダンスは。

 当初の目的よりも、やや上あたりを程よく刺激して。

 僕の踊りを見たヤツは、全員。

 腹を抱えての大爆笑になった。



 いきなり、エロダンスからコミックダンスに変わった客席側の反応は、悪くない。

 ご近所さんたちは、何の疑問も無く可笑しそうに笑い。

 僕の過去を知って居るヒトビトも。

 僕が『雪の王子』の時ならば、絶対にやらなかった種類の踊りだったから。

 以前とのギャップがありすぎて、さらに面白いらしい。

 みんな、純粋に、笑い転げ。

 僕の舞台に『真面目にやれ!』 と怒るヤツが出ないことに、ほっとしてた。

 気になるトシキの反応は、苦虫を噛み潰したように、歪み。

 十分な説明がほとんど出来ず。

 舞台の上で、道化の片棒を担ぎ、笑い者になった直斗は、演技じゃなく、本当に不機嫌だったけれども。

 それでも、今出来る精一杯で、舞台を務めてた。