僕の椿姫の元になっている場面は『黒のパ・トゥ・ドゥ』と呼ばれる所だ。
女に裏切られたと誤解している男の家に、夜。
忍んでやって来た女が、その誤解を解かないまま、男に激しく抱かれるシーンだった。
……
次に、踊るガロティンの女の衣装の上から。
トシキが持参した『椿姫』につきものの、黒く長いヴェールを被り。
僕は舞台中央に一人で立っていた。
そんな僕の真横を、ギターのトシキが通り抜ける。
その、勝ち誇った顔に、浴びせたい罵声を奥歯で噛み殺し、僕は、ただ待った。
トシキから、来る最初一音を。
緞帳(どんちょう)が上がって始まる、舞台の幕開けを。
僕は、そんな刹那の時間を待ちながら。
これが、僕の最後のダンスになることを、強く感じていた。
……
そして。
やがて音は、あっけないほど簡単に爪弾かれた。
始まったメロディに乗せ。
だんだん上がって来る幕に合わせて、僕の椿姫が動き出す。
夜。
部屋に忍んで来た女が、男に抱かれるため。
愛しい男の気を引くように。
まとったベールをゆるゆると脱いで、自分を自分で慰め出す。
……胸を。
……そのほかの快楽の源を探るように、もみしだき。
狂う。
けれども、女がいくら誘っても最初、男は動かない。
やがて、女は、たった一人で絶頂を迎えて……果て。
ようやく、心を動かされた男が女を抱く……
……のが筋だ。
僕が一人で踊る時は、男がすぐ隣の部屋に居るように演出し。
扉のこちら側に居るはずの僕は、男の気を引くために。
舞台の上で、いろんなことをやって見せる……それが。
人に見せたくないほどエロいんだ。