「てめ!
 あの花の『ミズノ』って……」

「そ、オレのこと。
 偽名ってか『通称』って言うヤツだ。
 地味だし、こんな遊びの時にはフツーに使ってる名前だけど。
 本名に近いから、莫迦にするとキレるヤツらが多くて、困る。
 お前の現役時代の踊りを見てるヤツも山ほどいるし。
 ……こんな奴らが見ている前で、手を抜いたり。
 ましてや、拒否するなんて、そんな莫迦なコト、できるワケねぇよな?」

 言って、トシキは獣みたいにほほ笑んだ。

「さすがに、これでもう逃げられないだろ?
 諦めて『椿姫』をしっかりばっちり踊って。
 お前が本当はどんなヤツだか、この街のヒトビトに見せつけてやれ。
 キレイでエロい雪の王子」

 コイツは、どうしても『雪の王子』にしたいらしい。

 唇をかみしめる僕に、トシキは言いやがった。

「ま、これで街に居づらくなったら、オレの所に来ればいいから……」

「僕に殴られたくせに、まだそんなことを!」

「……だって、オレ。
 螢に本気だから……」

「はあああ?」


 一瞬、トシキがナニを言っているのか、判らなかった。


 今度は、何の嫌がらせだ?

 と、睨めば。

 案外真面目そうなトシキの瞳が、僕を見てた。

「……例えば、お前に心から惚れたって言ったら……信じるか……?」

「莫……迦……」

 そんな切なそうな顔をしたって、あんたにやれるものは何もない!

 しかも。

 普通。

 『惚れた』相手にこんな無理を押しつけるか!?

「信じるワケないだろ!
 あんたが気に入ってるのは、僕のカラダだけだ。
 しかも、今まで意識したことのない『男の』だったから、ただ、珍しいだけだろ?」

 なんて、そんな僕の答えに、トシキの瞳が、ひゅっと細まった。

「……だな。
 オレも気の迷いだと思ってる」

 言って、トシキはけだるげに手を上げた。