「なぁ~~螢~~
飯食ったら、キャッチボールしようぜ」
「却下。
僕、自分のグローブ持ってないし」
直斗の誘いをあっさり蹴って。
とりあえず、服を着て、ざっと身だしなみを整えた僕は。
豆腐となめこの味噌汁をずずず~~っとすすった。
ちえ。
シェリーの飯は、相変わらず美味いじゃないか! くそ!
鰤(ぶり)の煮つけに、きんぴらごぼう。
ひじきの入った炊き込みご飯。
朝も早よから、夕食に出してもおかしくない気合いの入った飯は。
ほぼ、一日直斗の面倒を見るコトになる、僕のためだ。
子供の頼み方からして、見た目、とんでもない母親(ヤツ)に見えるけど。
あいつは、あいつなりに気を使ってるんだ。
本当は、洋食を作る方が楽だそうな、シェリーの完全和食は。
僕の好物ばかりの飯をつくって、機嫌を取ろうとしているのが丸わかりだ。
ふん。
ま、別に。
判ってても、騙されてやるけどな。
美味い飯に、シェリーが帰って来るまで、直斗の面倒は見る気になったけれども。
僕にだって、出来ないことはあった。
「グローブ?
なんだよ、そりゃ!
どうして、キャッチボールしてくんないんだよ~~!
螢って、俺の投げたボールも取れないほど、運動音痴だっけ?」
不満そうな直斗に、僕は、魚を飯の上にのせながら鼻を鳴らした。
「まさか。
六才児の球を取れないヤツがどこに居るんだ!
僕は『キャッチボール』を含めた『球技』をやりたくないんだ。
……特に、今日は。
日が悪かったな、チビ」
「チビじゃねぇよ!
直斗だってばっっ!
なんで、今日はダメなんだよ~~」
キャッチボール、キャッチボール~~と耳元でうるさく叫ぶガキに、僕はうんざりとため息をついた。