『特に何もなかったから安心して』

 ……と、ハニー達に報告できた昼食を終えた後。

 僕らのフラメンコ・チームに合流して、割当てられた楽屋……と言うか。

 普段は『第二会議室』らしい部屋に、荷物を置こうとして先頭に居る結花が、扉を開けた途端だった。

 香って来た、むせかえるほどの花の匂いと。

 一緒に来た、お姉さま軍団のわぁ~~っと言う歓声に、僕は思わずたじろいだ。

「な、なんだ……!」

 驚いて僕も楽屋の中に入ってみれば、そこに。

 所せましと、大きな花かごが幾つも置かれていたんだ。

 良く、開店祝いや。

 サングラスの司会者が特徴的な、お昼のバラエティ番組で。

 オトモダチ繋がりで、ゲストが呼ばれる時に紹介される花かごだ。

 山盛りの花に、贈り主と贈られた相手とを書かれた木の札が差されてあった。

 プロのダンサーや、役者の公演の初日に名前つきの花かごは、つき物だし。

 アマチュアだって、知り合いが贈ることがある。

 けれども。

 街の祭りで発表する団体全体へ。

 ならともかく。

 トリとはいえ、全部で三曲しか踊らない団体にこんなに花が贈られるなんて、変だった。

 しかも、その札には……

「相模 さん江。
 ミズノ商会?
 ミズノさん江。
 相模さん江。
 藤沢組OB会……?
 何よ、これ?
 誰から誰あての花?」

「商会に、土木建築屋さん?
 どんな組み合わせの知り合いよ?」

 ウチらには『相模』も『ミズノ』って言うヒト居ないわよね?

 と、首を傾げる結花と里佳に、僕は、ものも言わずに部屋を飛び出した。

『相模』は、僕がハニーと結婚する前に名乗っていた『旧姓』だ。

『ミズノ商会』や『ミズノさん』に覚えは、なかったけれど『藤沢組』は土木建築業じゃない。



 僕が昔。

 所属していた暴力団の名前だったんだ。