僕の言葉に、ハニーは、緩く包んでいた腕に力を込めた。

「大げさじゃない。
 君が急に夜勤を交代した時なんて、それを忘れて、焦ったことだってある。
 ……螢。
 私は、とても心配なんだ。
 何かまずい事が起きる前に。
 本当は今すぐ。
 病院やフラメンコを辞めてほしいくらいだ」

 案外真剣そうな表情(かお)のハニーに、僕は微笑んだ。

「仕事も、踊りも、やめたらすごく暇だね。
 一日中、部屋にこもって携帯小説でも更新するか。
 ハニーの菜園の水やりをするしかないかな?」

「私は、そちらの方が気が楽だ」

「携帯小説は、書いても金にならないし。
 まったく、収入がないのもなぁ……」

「セレブみたいな暮らしは、させてやれないけれど。
 今の生活水準で良ければ。
 小遣い込みで、君を養うことは簡単にできる」

 うーん。

 確かに、遊んで暮らせるのなら。

 それに越したことは無いけど、ね。

「フラメンコはともかく、看護師は続けていたいな」

 僕が闇から抜け出た証で。

 入試の時には、良く海外に仕事に行くハニーに英語を教えてもらい。

 入学の時も、ハニーと早瀬倉に骨を折ってもらったんだ。

 苦労して、取った看護師免許を使わずに、そのまま放っておきたくなかった。

 そう、僕が言えば、ハニーは深々とため息をつく。

「……それが一番危ないかもしれないのに……
 どうしても看護師をやるなら、せめて病院を変えるとか。
 それとも、いっそ。
 私の務めてる会社に入るか?」

「……え?」

「ウチの会社は、正社員だけでも三千人を超えてる企業だから、厚生福利も充実してて、健康保険部がある。
 普段は、社員の身体検査や、健康指導が主な仕事だが。
 私みたいな内臓疾患がある者が、海外出張するときは。
 そこから一人、看護師を同伴させて良いことになっている。
 ……私は今まで、他人と気が合わなくて、何もかも一人でやるか。
 せいぜい、仕事上の部下の佐藤君に手伝ってもらうにとどまっているのだが……
 話によっては、君を私の専属、っていうことで入れることが出来るかもしれない」

 ……って、えええ!?