「螢……熱くねぇ?」

 僕の腕の中で、直斗が言った。

 熱い。

 その言葉に、誘発されるように、ずきん、とカラダが疼く。

 今まで、きちんと、制御していた感情が、溢れ出しそうになって慌てて、気を引き締めた。

 そんな僕を敏感に感じて、直斗が心配する。

「もしかして、熱!?
 風邪を引いちゃったのか!
 だから、裸でなんて寝るなって……」

「……風邪じゃないよ」

 これは、トシキに飲まされた、熱。

 媚薬という、人の劣情を誘う厄介者を、僕は、まだ、身の内に飼っていた。

 僕は、昔。

 色事のかけ引きを、仕事にしてたんだ。

 これは、別に初めて飲んだワケじゃなく。

 ちゃんと、自分の意志で、熱は、制御出来る。

 強い薬を通常の倍飲んで、暴れた挙げ句。

 トシキには、散々煽られたけど………

 大丈夫。

 直斗には、欲情しない。

 そんなふうに『好き』じゃないから、愛の対価に、カラダをくれ、とは、要求しない。

 大丈夫だ。

 僕は、直斗を傷つけない。

「……螢、震えてないか?」

「……大丈夫だ」

 心配そうに見上げる直斗に、僕は微笑んだ。

「落ち着いたら、風呂に行け。
 直斗からいろんな匂いがするぞ?
 自分でシャワーは使えるな?
 ……良かった。
 さすがに、今は。
 あんたのカラダをまともに洗ってやれる、自信がないんだ」