トシキが要求した、快楽を追求するためのカラダ、のように。

 触ったり、そばに居るだけで『ある』とは判らない。

 しかも、実は。

 この世で最も、大切なモノかもしれないモノの要求に、僕は、そっと微笑んだ。


 直斗は、大人びて、意地を張っているけど本当は。

 それだけ、寂しかったんだ。

 父親を早くになくして。

 志絵里を支えるために、早くオトナになろうとして背伸びしてるけど。

 本当の所は、直斗の心は、ついていけないんだ。

 まだ、抱っこの必要なガキのクセに。

 無心に抱きしめられて判るより。

 言葉での説明を求めてる。

 僕は、こっそりため息をついた。

「僕の心は、ハニーの……あんたの伯父のハインリヒのモノだから。
 直斗には、やれない」

「やっぱりな!」

 僕の答えに、直斗は、ますます頬を膨らませた。

 例え、直斗でも。

 僕から『心』を無理にもって行くのなら。

 それは、傍若無人に僕のカラダを奪おうとするトシキと同じ。

 必要とあれば、相手が直斗であっても戦ってみせる。


 だけどね。

 直斗。

「心は『砕く』ことが出来るんだ」

「……は?」

 僕の言葉が意外だったのか。

 目を見開く直斗に、僕は、言った。

「心って本当は、丸ごと全部をハニーに預けるのではなく。
 直斗に必要なだけ、砕いて渡すことが出来るんだ」

「そんなの嘘だ!」

「僕は、ウソをつかないさ。
 だから、直斗が一番好き、とは言わなかっただろ?
 直斗は、僕が好き?
 じゃ、僕だけが好きでシェリーはキライ?
 ……違うだろ?」

「……」

「花が咲くためには、太陽の光と水が必要なように。
 子どもは、ね。
 何人分かの愛情をもらって、でかくなるんだってさ。
 今、一番、直斗のコトが好きなのはシェリーだと思うし。
 それだけじゃ足りない、って言うのなら。
 いつか、将来。
 直斗の事を好きになってくれる、誰か出てくるまで僕があんたを愛してあげる。
 ……それくらいには、直斗のコトが好きだ」