別に、直斗のことは、キライじゃないよ?

 と、開いた両手を、べしべしっ、と、はたかれた。

 どうやら。

 俊介と戦った時の、気の立った山猫みたいな感覚が、抜けないらしい。

 八つ当たりの方向が、近くに居る僕に変わったんだろうか?

 背中を丸めて、怒っている直斗に、僕が困ってため息をつけば。

 直斗は、低く、唸るように、言った。

「抱っこ、なんて。
 俺を赤ちゃん扱いすんなよな!」

「……何、言ってるんだよ。
 この前、ミルクを卒業した、ガキのクセに!
 赤ん坊と、どう違うって………」

「螢の莫迦!!」

「なんだよ!
 先に、僕を『パパ』だなんて呼んだのは、直斗だろ?
 だから、僕が、出来ることをしようと思ったのに」

「ぷんっ!!」

 頬を思い切り膨らます直斗に、僕は肩をすくめた。

「そんなに、抱っこがイヤなら、シャワーを手伝ってやるよ。
 朝から、食いもんで汚した挙げ句。
 今度は、化粧品でドロドロじゃないか」

「螢の大莫迦!
 鈍感!!
 大間抜け!!!
 なんだよ!
 シャワーぐらい!
 手伝ってもらわなくても、自分で出来るさ!」

 とうとう、かんかんに怒ったらしい。

 直斗は、でかい声で、怒鳴って来やがった。

「キライじゃない、だって?
 そんな中途半端な言い方でごまかすなよ!
 螢は、ハインリヒだけしか好きじゃないクセに!
 人形みたいに、ココロのこもってないヤツに触られたくないんだよ!
 俺のことが『好き』なら、ちゃんと『好き』って言って!
 キライなら、イヤイヤ俺に構うなよ!
 ほっといてくれ!」



 そう。



 直斗は。



 その小さな身体を全部を使って。




 僕の『心』が欲しいって訴えたんだ。



 その思いは、真剣で。



 僕は『パパ』と呼ばれて照れている場合じゃなかったんだ。