「直斗君が、先に手を出したんだ!」

 ぴしっと指差す、俊介の手を。

 ぱしりっ、とはたいて直斗も俊介を指差した。

「コイツが螢を『女みたいだ』って悪口を言ったんだ!」

「悪口なんて言ってないよっ!
 『一緒に来たのは、母さんとだっけ?』ってきいただけだろ!?」

「悪口じゃなければ、なんだって三回も聞くんだよ!
 俺はそのたびに違うって言ったろ!?
 あんた、耳ある!?
 ちゃんとヒトの話を聞いてんの!?
 それに良く見ろ!
 蛍は、どう見たって男じゃないか!!!」

「うるさいな!
 男に見えなかったから言ったんだろ!
 どー見たって!
 ウチの父さんの周りに張り付いてる女のヒトタチと同じじゃないか!
 莫迦っ!」

 二人は、額をくっつけんばかりに近寄ると。

 つかみあいを始めるつもりなのか、大きく手を開いた。


 ……ケンカの原因は……

 もしかしなくても、この、僕か?

 それにしても、なんて。

 間抜けな理由で、言い合いをしてるんだ、こいつらは!



 さすがに、こんな所でこれ以上。

 乱闘込みの喧嘩は、マズイだろ?

「まてまてまて!」

 と。

 僕が二人のガキの襟首を持って引きはがしにかかった時だった。

 直斗から出て来た言葉に、僕は止まった。




「螢は、女じゃない!
 ママじゃない!!
 俺の、大事な、パパなんだからな!!」