「早瀬倉が生きているころ。
 ヤツは、刑事だったし、僕は、裏社会にいたんだ!
 何回、アイツに『仕事』を邪魔されたと思ってるんだよ!」

 そうさ。

 今は、その頃の罪を完全に償って『看護師』なんて職業をやってるけど。

 僕には、消せない過去があった。

 僕は、昔。

 世間一般からは『極道』とかって呼ばれる暴力団の一員だったんだ。

 直斗が『カッコイイ』なんて言っていた背中の竜の刺青や、体幹部に残る無数の傷が、その証だ。

 僕は自分の家以外では、素肌を見せられないほどボロボロの皮膚をしていた。

 早瀬倉は、僕より18才年上の、親父みたいな刑事で。

 僕が行く先々で、邪魔をしてくれた挙句。

 何度ヤツに補導されたか判らない、僕の天敵だった。

 どんな時でも正義の味方、みたいにやって来る所が嫌味ったらしく。

 ヒトの顔を見りゃいっつも、長々と説教する所が嫌いだった。

 でも、ヤツの一番嫌な所は。

 僕が、極道から、医療関係なんて180度転換するときに。

 償った、とはいえ。

 過去の汚れた僕が、看護学校に入れるように。

 ハニーと一緒に学校長の前で、土下座までしてくれた所と。

 僕がヤツに何も返すこともできないうちに、とっとと殉職してしまった所だ!

 くそったれ!
 
 どうせ、僕が本気で、直斗の面倒を見るのを拒否しないことは。

 ここに居る全員……直斗でさえ、知っていることで。

 シェリーは、楽しそうにコロコロと笑うと、じゃあ、夕方までよろしく~~なんて、部屋を出て行こうとした。

 ……冗談じゃねぇ!

「待てよ!」