「ばっ……莫迦たれ!
 誰がてめぇを、誘うかよ!
 あんたがあやしい薬を呑ませたんだろ!?
 他意は無いだの、男を抱く趣味は無いだのって聞いて呆れる……!」

 トシキは、壁に追い詰めた僕の両肩に、自分の両手を置いて、逃げられないようにすると。

 僕の唇を自分の唇で、探すかのように、近づいた。

「お前が色っぽすぎるのがいけないんだ。
 男のくせに、なんてヤツだ。
 結花で遊ぶつもりのクスリが、こんな所で役に立つとは、思わなかったぜ?」

 口を塞がれまいと。

 顔をあちこちそっぽ向け。

 逃げ回る僕の唇を追いかけながら、トシキは言った。

「そう、逃げんじゃねぇよ。
 ご丁寧に、媚薬の入った茶を二杯も飲んで、暴れ(踊っ)たんだ。
 壁や、オレに支えられてなければ、立てねぇんだろ?」

 とうとう唇をあきらめたらしい。

 トシキは、シャツの大きくはだけた僕の首筋に、唇を落として、かり……と軽く噛んだ。

「……!!!」

 その刺激に、膝が砕けて。

 僕は、本格的に、トシキに体重を預けた。

 そんな僕に。

 トシキは、勝ち誇ったようにささやく。

「それで、お前の体重全部?
 軽いな。
 まるで、本当に女みたいだ」

「莫迦野郎……!」

 筋肉ねぇなと莫迦にされて、なんとか自力で立ち上がろうとする僕を。

 トシキが自分の全身を使って、抱きしめて来やがった。

「ざけんじゃねぇ!
 離せよ!」

「オレは、無理やり奪うのは、好きじゃない」

「……これが、違うってのか!?」

「優しくしてるだろう?」

 確かに。

 トシキは、乱暴ではなかった。

 暴れる僕を逃がさないように、押さえ込んではいるものの。

 ケガをさせるつもりは無いらしい。

 だけども、それが何だ、って言うんだ!

 嫌なモノは嫌だと、暴れれば暴れるほど、上がって来る熱が苦しくて。

 僕が、抵抗を緩めれば。

 トシキが、悪魔のようにささやいた。

「バルデオール。
 舞台も、皆の前でも椿姫が、嫌ならば。
 オレの腕の中で踊れよ。
 ギターの代わりに、オレがお前を弾いてやる。
 カンテは、お前のあえぎ声だ」