油断するともれそうになる、自分自身のうめき声を呑み込み。

 がくがくと震える指を励まして。

 舞台衣装のシャツを脱いだ時だった。

 男性用更衣室の入り口で。

 誰かが、ひゅう、と口笛を吹いた。





「……すげーカラダ。
 傷だらけの上、背中には、竜の彫もんなんて。
 コレ、あんたが自分の『組』を抜ける時。
 全部いっぺんにやられたんだろ?
 ……よく、死ななかったな……」

 自分のやったことを完全に棚に上げ。

 すたすたと近づいて来るトシキに、僕は、威嚇するように吠えた。

「……てめぇ!
 僕に、ナニを飲ませたんだ!」

「~~ん~~?
 やっぱ、バレた?
 別に、たいしたもんじゃねぇよ。
 ちょっとくらいエッチな気分になった方が。
『椿姫』が踊りやすいんじゃないかって思っただけで。
 他意は無いさ。
 オレ、男抱く趣味ないし?
 でも、お前。
 クスリで狂って、オレにじゃなく。
 里佳に欲情してただろ?
 ……本当に。
 男が好きなヤツってわけじゃないんだな」

『楽しいヤツ』なんて。

 うすら笑いを浮かべながら。

 ますますトシキは、僕に近づいて来る。

 その。

 言葉とは裏腹に、あまり余裕のなさそうなトシキの瞳の輝きに、僕は、ぞっとして。

 慌てて私服のシャツに袖だけを通すと、後ろに下がった。

「側に、寄るな!」

「あんまり叫ぶと、声が外に聞こえるぜ?」

 なんて、冷静に言うトシキの言葉に耳を傾ければ。

 壁の向こうで、フラメンコ仲間が、楽しそうにガヤガヤと騒いでいる声が聞こえた。

 思ったより、相当壁は薄い様だ。

 その壁に、あっという間に僕を追い詰めた。

 そして、トシキは耳元でささやく。
 
「……お前、エロすぎ。
 そんな顔して、男のくせに男なんざ、誘うなよ?
 思わず、このオレでさえ……本気になっちまうだろ?」