大して、困っている風でもなく。

 僕の恋人であるハインリヒの妹は、寝室の扉の前で、長い髪をくるくる指に巻きながら言った。

 そして。

 兄貴と同じ緑色の瞳を細めて、僕に、にこっ、と笑いかける。

「螢ちゃんと、直斗って義理の従兄弟じゃない。
 いわば、お兄ちゃん同然。
 螢ちゃんには、身内のよしみで、是非、直斗と仲良くしてほしいのよ」

 勝手なシェリーの言い草に、僕は盛大に鼻を鳴らした。

「従兄弟だって!?
 僕がハインリヒの義理の息子っていうことになっているのは、日本では、同性婚が認められてないからだ!
 入籍したから、戸籍上はハインリヒの息子ってことになってるけど、僕はハニーと十才しか離れてないんだぞ!
 こんな年の離れた、生意気な弟なんて、面倒見てられるか!」

「……弟ってのが嫌なら、螢ちゃんの息子ってことにしても、あたしは良いわよ?」

「息子!!」

 一体こいつは、何を言い出すんだ!!

「人に誤解をされるような言い方すんなよ!
 だいたい、もしコイツが息子なら、僕がいくつの時の……!」

 僕が叫ぶと、シェリーは、にっこりと笑った。

「あらぁ。
 螢ちゃん、前に、兄さんとの子供が欲しいって言ってたじゃない?」

「う……」

 そんなの!

 ……言ったことは、あるかもしれない……けど。

 思わず止まった僕に、シェリーは、たたみかけるように言った。

「どんなに愛しあったとしても。
 螢ちゃんたちに、子供は、無理じゃない?
 直斗はあたしと旦那の大切な息子だけど。
 兄さんの遺伝子を四分の一もひきついでいるのよ!
 いいでしょう?
 本当は、もったいないけれど。
 螢ちゃん、可愛いし。
 昔、ウチの旦那とも仲良しだったから、特別に、直斗をかしてあげるのよ!」

「……へ?」

 自信満々のシェリーの言い草に、僕の時は再び止まる。

 伯父と甥の関係って、本当に血が四分の一、だったか……?

 しかも!

 僕が、生前の早瀬倉と仲良しだったって!?

 とんでもない!