僕が何か、言う前に。
トシキは、結花を引き寄せ。
自分の周りに、なんとなく集まっているヒトビトに向かって言った。
「……今の曲の続き、聞きたくないか?
この曲は、実はダンス曲なんだ。
そこのバルデオールが上手いぞ。
見たいヤツ、いるか?
オレは、弾くぜ?」
トシキの呼びかに、フラメンコ仲間が全員。
ずざざざっと、僕を見た。
その目が皆、期待に満ちて、やけにキラキラしい。
僕に向かって『踊って見せて』と言っている。
……!
トシキ、てめぇ!
僕が『踊らない』と言ったもんだから、みんなを巻き込む手を使いやがったな!
トシキは、にやっと笑うと、また、ギターを弾きはじめた。
『椿姫』を最初から。
その音に。
僕のフラメンコ仲間は、わあ~~っと、歓声を上げた。
フラメンコとは全然違うけれど。
『淫らに』とは言えそれは、踊りがつくからで。
何も知らされないで聞けば、その曲は。
基本、ノリやすく。
リズムも、踊りもやりやすい。
みんなは、すぐにリズムを覚えてトシキのギターに合わせ、手を叩き出した。
これじゃ、逃げられないじゃないか!
しかも。
トシキの奏でる音は、妖しく、官能的で。
まるで、僕の敏感な部分を撫でるように押し包み。
これが、どんな曲か知ってる僕は、欲望の熱をあおられる。
全く!
本当に、コイツは!
真っ昼間のこんな場所で、僕に、なんてことをさせようってんだよ!
僕は、今にも、ぷちっとキレそうな心を押し隠し。
トシキを目の端で睨むと。
何も知らずに、僕を引っ張り出そうとするみんなに、にこやかに笑った。
そして、僕は、ため息をつくと、曲にノリ。
『踊り』のための一歩を踏み出した。