今の状況は、きっと。

 里佳の踊る曲が、仕上がり。

 残りは、群舞のセビジャーナスって所だろう。

 続けて、弾こうにも。

 僕が、うたた寝してたから。

 なし崩しに、休憩になってしまったようだ。

 ……ん、で。

 手持ちぶたさのトシキは。

 手慰みに『椿姫』を演奏し。

 それを、加月姉妹やら、群舞のみ出演のおばさん達やらが。

 聞いている……って、感じかな?



 ……なんだか、悔しいけれど。

 トシキは、かなり、ギターが上手かった。

 だから、あんな、変な夢を見たに違いない。

 現に、今だって、ほら。

 キレイに続く『椿姫』の音色が。

 僕の中にある『何か』を呼び覚ます。

 あれほど嫌だった『過去』を受け入れ。

 今、トシキに乞われれば。

 一回ぐらいなら、踊っても良い気に……


 ……いや。

 ダメだ。


 心とカラダのばらばらな感覚は、まだ続き。

 椅子から立ち上がりかけた僕は、失敗して。

 すとん、と、また、椅子に逆戻りした。

「……螢?」

 腰が砕けた感じで、一回では立ち上がれなかった僕に。

 直斗が、不安そうに声をかけて来た。

 ヤツは、僕を心配する時だけは、必ず年、相応の子どもみたいになるのな、と。

 どうでも良いことを思いながら。

 僕は、頭を振り、さっきのお茶を飲むと、もう一度立ち上がった。

 スタジオのレンタル時間は、限られている。

 しかも、本番は、明日で。

 僕のために、全員参加の群舞の調整が出来ない、なんてことは、有り得ない。

 僕が目を覚ましたのを見たらしい。

 トシキは、ばらららん、とギターを鳴らして『椿姫』を止めると、わらった。



「やっと起きたな。
 眠り姫は、どんな曲がイイんだ?」