フラメンコの良い所は、踊り手感情のまま、自由に踊れる所で。

 必ずしも舞台の上では笑わなくてもいいんだ。

 だから、却って。

 フラメンコの演者の微笑みは、信じられる。

 人形の笑みでなく『人間』の喜びとして。

 その場所を照らすから。

 ガロティンは、神さまと一緒に。

 大好きな『あの人』へ、愛を伝える陽気な曲だった。

 本当は『王道なフラメンコ』から、やや外れてはいるけれど。

 つば広の帽子を使って、いろんな表情を出して踊れるところが、好きなんだ。



 ばらららん



 案外上手いトシキのギターが、僕の耳に響く。

 気まぐれに、突然始まった曲に、少し驚きながらも。

 里佳のパルマ(手拍子)が続き。

 結花のカンテ(歌)が絡む。

 スタジオ内に、それぞれ散っていたカンテとトケが、曲を織り、作り上げながら、所定の椅子に座り。

 パルマが、料理のトッピングよろしく、曲にノった所で。

 僕も、演者の中に滑り込んだ。

 最初は。

 ファルダ(スカート)の端をつまんで、キュートな、女の子のように。

 しなやかに、身軽なステップで、独特なリズムを刻む。

 踊りながら、僕も。

 フラメンコに封印された物語のように。

『大好きなあの人』ハニーに向かって、心の中で、話しかける。



 ……ねぇ、知ってる?

 僕、本当は少し前まで。

 こんな、女の子の格好が好きじゃなかったんだ。

 見るからに、弱々しく。

 華奢過ぎるこのカラダがコンプレックスで。

 相手にナメられないように、なんて莫迦な理由で、喧嘩を覚えた。

 外見とのギャップで、相手が油断してくれるからか、どうなのか。

 闇の世界でも、最強、最凶一人として。

『組』でも一目置かれたはずなのに。

 僕が、初めて。

 心の底から愛したのが。

 男、だったなんて。




 ……とても笑える、皮肉。