「帰ることなんて無いよ、螢君。
 あたし、着替え持って来てるの。
 ちょうどその子ぐらいの大きさじゃない?」

「……へ?」

 女ってヤツは、いつも。

 妙に準備が良い生き物だと思っていたけれど。

 まさか、こんなに準備が良いなんて、思っても見なかった。

 何しろ。

 子供服だぞ?

 大きさ限定の着替えだぞ?

 すっかり感心している僕に、姉の結花が、意味深に、目を細めた。

「うふふ~~
 実は、あたし。
 今日は、家族全員で来ているのよね~~」

「へぇ~~?」

 そう言えば。

 結花とは、同じ職場で働いているけど。

 シングルマザーだって聞いたことがある。

 看護師って。

 夜勤までやれば、それなりに実入りもある。

 だからってわけじゃないだろうけど、自立している女性が、多く。

 結婚しないヒトや、様々な理由でシングルマザーなヒトが、結構居る。

 それが、珍しく無いものだから、すっかり忘れてだけど……

 確か、結花は、一度も結婚せず。

 旦那は、ひ・み・つ、なタイプのシングルマザーだったっけ。

 相手の男に、正式な妻がいたのか。

 それとも、よろしく遊び過ぎて、本当に、旦那が誰か判らないのか知らないけれど。

 気さくで、確実な仕事ぶりを見る限り、職場では、頼れる姉(アネ)さんだし。

 趣味のフラメンコでは、踊りよりも、歌姫ってとこで。

 いつも、プロ顔負けの良い声を披露してくれてるから。

 世間様がなんと言おうと。

 僕は、かなり気に入ってるんだ。

 そうか。

 螢君『も』とか言っている辺り。

 結花も、子供を連れて来てたんだ。