「ああ?」

「志絵里は俺を白鳥の湖の『王子様』にしたかったみたいだけど、周り中、女の子しか、踊ってねぇし!
 そもそも。
 いっっくら頑張って練習しても、曲に乗れねぇんだ!
 踊って行くウチに、みんなからズレてゆくし!
 何よりも、俺が踊ると、客が笑うんだ!」

 ……それって、もしかして。

「要は、ダンスの才能ない?
 ……どじょうすくいは、直斗の方か?」

「うるせえな!」

 俺は、チャラチャラダンスなんかやるより、大きくなったら、バイクに乗るんだ! と。

 直斗が叫んだ時だった。

 今日のリハーサルメンバーの、姉妹に会ったんだ。

 辺りが急ににぎやかになったかと思うと。

 黄色い声が、僕の後ろから飛び込んで来た。

「きゃ~~!
 可愛い~~!
 この子、螢君の子?
 螢君も、子供を連れて来たんだ~~」

「……『も』ってなんだよ!
 違うって!
 そもそも、全く似てないだろ!?」

「確かに、甘い感じの螢君に比べると、ずいぶん違う顔つきだよね?
 でも、なんか。
 イケメンな所がそっくり~~?」

 そう言うと、二人の良く似た姉妹が。

 二人同時に、笑い転げた。

「……結花(ゆか)、里佳(りか)。
 あんた達、一度眼科に行って来い」

 ……どうして。

 屋台の食べ物で、顔と、服と、手がどろどろの直斗が。

『可愛い』く『イケメン』で『僕にそっくり』なんだ!?

 明日、祭りで踊るフラメンコのリハーサルをする一緒にやるやつらで。

 歌(カンテ)と手拍子(パルマ)を担当する加月姉妹。

 結花と里佳にまでからかわれて、僕は、ため息をついた。

 ……でもまあ。

 この二人に会ったのは、ある意味天の助けかもしれなかった。

 何しろ。

『状況』が目の前にいるんだから。

 直斗の着替えで、いったんウチに帰ることを告げれば。

 二人は、また、楽しそうに笑った。