もし……もしも。

 俊樹がそんなに悪いヤツじゃなく。

 ただ、曲を弾くのが好きなだけの男だったとしたら。

 僕を受け入れてくれた、おせっかいなご近所さんも、俊樹と付き合い出すかもしれない。

 そうしたら、何かが変わって、俊樹にも陽の光が、差すのだろうか。

 僕よりも、更に深い闇に捕えられ。

 生きて抜け出すことは、たぶん無理な俊樹にとって。

 その光は、救いになるのか。

 それとも、ただ辛いだけのコトに留まってしまうのか。

 先のコトなんて。

 それから、一週間しか経ってない今じゃ、判らないけれども。

 朝日の差す、僕とハニーの寝室で、そっと拳を握れば。

 どすん、とばかりに、良い勢いと衝撃が来た。

「……ヒトのコトを踏んで行くんじゃねぇよ、直斗」

 見れば、まだ、ハニーと追いかけっこしている直斗が、僕に乗っかって来たらしい。

 考え事一つ、落ち着いてできないのかと、睨む僕に、直斗が笑う。

「螢がジジクサく、何か考え込んでるからだろ~~?
 時間は、勝手に進んでくのに、考えてたって何も変わんないだからさぁ。
 とりあえず、飯食って動こうぜ~~?」

 キャッチボール♪

 キャッチボール♪♪

 と騒ぎながら、ご機嫌に僕の手を引っ張る直斗に導かれるまま。

 裸の僕がベットから這い出せば。

 柔らかい朝の光が、僕の体中にある傷と、刺青を穏やかに照らしだし……すぐ。

 直斗から、愛用の上着(ガウン)が投げられた。

「裸でうろうろしてっと風邪を引くってさ~~」

 先週みたいに、調子を崩されたらヤダと言う直斗に、もうそんなことは無い、と笑いかけ。

 僕は、上着に袖を通して一生消えない背中の竜を退散させると、愛しいヒトの手を取った。