「誰が惚れるか、莫迦たれ!
 大体、何だ!
 この『水野小路会 若頭』なんて肩書きを堂々と!
 普通、こういう名刺(ヤツ)は肩書きを直接書かずに、適当な会社の役職でごまかしてるもんじゃ……」

「そう言う名刺もあるけど、それ、特別製なんだぜ?」

 言って、俊樹は、にやり、と笑った。

「名刺に書かれた電話は、オレ直通だし。
 水野小路の関係者に持っていけば、そいつが、必ず。
 オレの所まで連れて行ってくれる。
 例えそれが日本じゃなくて、地球の裏側だろうと、刑務所の中だろうと……」

 デートの約束用には、丁度良くないか?

 と、片目を瞑る俊樹に、僕は名刺をつき返した。

「あんたと付き合う気は、今後絶対、一切ない!」

「ん、だよ~~
 さびしいコト言うなよな~~」

 返された自分の名刺をひったくり、改めて僕のシャツの胸ポケットに押し込むと、俊樹は肩をすくめた。

「ま、とっておけって。
 水野小路の後ろ盾があると、今後ぜってぇ、イイコトがあるからさ」

「僕は、もう二度と裏社会には……」

 戻らない、という僕のセリフを俊樹はもぎ取った。

「例えば、今日の後始末」

「……何だよ」

「今日の舞台を『雪の王子復活』だと勘違いして。
 お前にスカウトが何件か来てるけど、どうする?」

 少し真面目な顔になった俊樹に、僕は噛みついた。

「ざけんじゃねぇよ!
 それは、全部俊樹が勝手にしゃべったのがいけないんだろ!」

「そーそー。
 だから、オレ。
 責任を感じてるんだよ。
 お前が、あんまりおもしろいヤツだったんで、はしゃぎすぎたのは、悪かったよ」

 言って、俊樹は子供みたいに、舌を出した。

「『雪の王子引退』は残念だけど……あんな踊りをみせられちゃ。な。
 お前の息子の、チビ王子にも、睨まれそうだし。
 ちゃんと元どおりにしとくからさ。
 今までの平和~~な生活を続けたかったら、ニ、三日。
 職場とダンス休んで、家に閉じこもってろよ。
 それ以外は、迷惑かけないし。
 万が一、なんか変なコトが起きた場合。
 連絡くれれば、飛んでゆくから」

 ……どうやら。

 俊樹は、俊樹なりに気を使ってるつもりらしい。