「~~ん~~
 ま、デートっちゃデートかも……」

「螢君!」

 青ざめて叫ぶハニーに、僕はちょっと意地悪く手を振った。

「先週の産業祭で、世話になったからさ。
 今日は、一日、直斗に付き合う予定だったんだ。
 だけど、まさか。
 ハニーが休みを取るなんて、思ってもみなかったから……」

「……螢君まで、私を邪魔にするのか?」

 普段の、自信たっぷりな態度はどこへやら。

 上目遣いで泣きそうな顔になったハニーに、僕は耐えきれずにふき出した。

「僕がハニーを邪魔になんて、するワケ無いだろう?
 しかも、相手が直斗なのに、一体、何を想像してるんだよ?
 今日の予定は、河原でキャッチボールだってば。
 当分、踊りの発表会はなさそうだし。
 看護師も一旦休職中で、カラダもなまりそうで……」

 そう。

 先週の産業祭は、あの嵐のような拍手を貰ったガロティンの後。

 トシキも、おとなしく残り二曲を弾き切って無事に、祭りを終えることが出来た。

 けれども。

 祭りの大成功に湧くフラメンコ・チームの影で。

 一人でそっと去ってゆくかと思ったトシキが。

 とんでもない置き土産を、僕に残していきやがったんだ。

 それは、何の変哲もない、一枚の名刺で……だけども。

 書いている内容をよく読んで、僕は、げっ、と息をのんだ。

 ……だって、そこには。

 現在。

 関東地方で一番の勢力を誇り。

 暴力が絡んだ事件では、まず筆頭に挙げられるような暴力団の名前がでかでかと書かれていたからだ。

「水野小路会、若頭。
 水野小路 俊樹(みずのこうじ としき)だって?」

「そ、オレのこと。
 ……惚れた?」

 トシキ……いや。

 俊樹は、そう言うと、相変わらずの様子で、へらへらと笑った。