「今日は、これから用があるんだ。
 そもそも、キャッチボールをしている暇はない」

「え~~っ!」

 ~~っ!

 耳元で、直斗に、不満たらたらの大声をあげられて、僕は、顔をしかめた。

「~~キャッチボールは、やらないけど、あとで祭りに連れてってやるよ」

「え~~~~っ!」

「なんだよ!」

 さっきよりも、でかい声で、叫ぶ直斗に閉口して、言い返せば。

 直斗は、ガバッと身を乗り出した。

「祭りって、今日、明日、の2日間でやる産業祭のこと!?
 屋台が出たり、街で出来た野菜とか売ったり、趣味のクラブの発表とかを公民館でやるヤツだろ?」

「……そうだけど。
 チビは、興味無いのか?」

「あるよ!
 俺、焼きそばと綿アメ好きだもん!
 でも、まさか!
 螢がお祭りに行くなんて!
 ご近所さんも、一杯、出るんだろ?
 普通に屋台で何か買ってて、見つかったら、イジメられたり、無視されたりするんじゃないの?」

「……は?」

 昔、ヤクザの一員だった頃ならともかく。

 今は、僕の過去を知る人も居ない所で、真っ当な暮らしをしているんだ。

 ワケが判らず、首を傾げる僕に、直斗は言った。

「道を歩くと同性愛者が来た~~なんて、逃げられない?」

「ぶっ!」

 直斗に、あらかさまに言われて、僕は、味噌汁を吹きそうになった。

「……なんだそれは!
 ウチの近所で、そんな下品なヤツは、居ねぇよ」

 確かに、最初。

 僕もハニーの家に来た時は、どきどきだったけど。

 暮らしてみれば、案外、悪くなかった。

 ただの同居人だった頃は、ともかく。

 ちゃんとハニーの籍に入り。

 普段は、近所の老人ホームで仕事をしたり。

 休みの日には、ハニーの趣味の、気合いの入った菜園の手伝いを一緒に手伝っているのを見てるのか。

 自分たちに無害だと判ると。

 隣近所の住人達は僕を受け入れてくれたんだ。