語り終えるとマスクをした。

「じゃあ、始めるよ」

女は堪らず泣き出した。

「まっ…でぐだざい…」

女は堪え切れなくなり、声を上げて泣いた。

老医師はマスクを外して、外出用のコートを羽織った。

「私に着いておいで」

老医師の手を借りて立ち上がると、ゆっくりと歩いた。

だいぶ目立つお腹を支えながら、一歩一歩坂を登った。

山の中腹にある社に到着すると、祠堂があった。

老医師が指し示した先には、小さな体で大きな幸せを運んで来た子どもの写真が溢れていた。

「産んで破棄する大人のエゴ。子どもを産んだことで、見苦しい仮面を脱ぎ捨てたんだよ」

「捨てるのは子どもじゃなかったのね…」

「これでもあなたと父親の意思を貫くかね?」

女は老医師の目を見て微笑み、ゆっくり首を横に振った…。

「生まれたら…。元気に生まれてくれたら…。きっとこの島へ連れて来ます。この綺麗な夕日を見せたいから…」