「寂しいところね…」

呟いた女に、電話の向こうで男が諭すように語りかけた。

『これで最後だ…。必ず終わりにするから』

「本当に最後にしてよ?」

『約束するよ』

女は簡素な造りの診療所へ入った。

「すみません。予約をしていた内田ですが…」

「どうぞお入りください」

矍鑠とした老医師に促されて、診察室に入った。

「お電話で伺った通りの措置がご希望ですかな?」

「ハイ…。どうしても…」

「いけないことだとは認識されていますか?法的にも、道義的にもね」

「こうしなければ彼が…」

「誰が…?誰がです?」

眼鏡の奥から、射るような視線を発した。

「痛いのはあなたか?辛いのは彼か?」

「わ、私が我慢すれば良いことです…」

「あなた…。身勝手な勘違いをされているね。あなたでもなければ、彼でもない。そのお腹の子どもなんだよ」

言いながら、診察台に白い敷布を掛け、消毒液で手を消毒した。

「台の上で仰向けになって」

言われるままに、女は寝そべった。

「こんなところまで来たんだ、希望は叶えてあげるがね、産婦人科が専門ではないから」

膝を立て、脚を拡げた。

「島のこと調べて来たのかい?」

「…。」

「誰が言い出したのかの?捨て子島なんて別名があるらしい。ワシが来てから四十年の間、一人も捨て子なんていなかったのに…」

「いないんですか?」

「いるはずなかろう?こんな離島に来るもんかい」

「私みたいな妊婦が堕胎に来るから…?」

「どこかで聞き付けて訪ねて来た女性は大勢いたがね。一人も堕ろしてないよ」

“一人も”…?

「でも評判が…例え臨月でも、ここへ来れば処理してくれるって…」

「山を登ると、途中に社があってな。綺麗な朝日も夕日も見られる場所に」

語りながら手術器具を並べていく。

「そこには“生まれて来てくれてありがとう”と書かれた母子の写真が溢れてる。みんな幸せそうな表情をしてな。悩んだ末に母親になった女性が置いて行くんだよ。あんたも見てから来れば良かったのになあ」