「奏斗先輩は、来てくれないと思ってました」


すると錫代はぽつり、そう呟いて少し泣きそうな顔で笑った。


「だから、来てくれて嬉しいです――」


そう、風が吹いたら散ってしまう桜のような、無垢で儚い笑顔で――。


何でそんな笑顔ができるのだろう。


図書室で、紙切れのように錫代の気持ちを握り潰したのに……。


俺はその笑顔に責め立てられているようで、とても直視なんてできなかった。


「俺は……、俺は待ち合わせに来たわけじゃない……。錫代ももう帰れ」


背を向けて俺は冷酷に告げる。


錫代の想いが消せるなら、たとえ恨まれようともかまわない。