目の前に見えたのは、俺にとっては重い扉。


それを千秋は片手で簡単に開け放つ。


何で俺が今更ここに来なくちゃならないのか。


そんな気持ちなど無視して、千秋は俺をその空間へと放り投げた。


――もう足を踏み入れたくもない場所。

かつての“俺”が……、“夢”がいた場所だ――。


もう俺はここに来る気なんてなかったのに。


「おっ、来てくれたのか、奏斗」


耳に入ってきたのは低く落ち着いた声。


しっかりとした体格に、黒髪に金のメッシュを入れている。


その男は黒のジャズべを置きながら、切れ長の目を穏やかに崩し笑顔を向けてきた。