輝きを失った星々。
色を失った桜の花弁。
俺の目にうつる世界は、“あの日”からモノクロになった。
みんなで追い掛けた夢も、
大好きな音楽も……。
お前が輝きをくれてたんだ。
でも、
お前はもう隣にはいない――。
俺は、お前も、生きる希望も全て失ったんだ。
ヌケガラになった俺に、生きる意味なんてあるんだろうか……?
――Chapter 1――
この出逢いは
偶然か?必然か?
それとも俺への罰なのか……
お前の姿にかさなってゆく――
春の風が俺の横をすり抜けていく。
歩いていれば嫌でも目に入ってくるのは、満開の桜。
そしてそんな春の訪れに浮かれる奴等の喧騒。
同じ制服に身を包んだ者達は一様に、新しい春の始まりに胸を躍らせている。
……でも、そんなの俺には関係のない話だ。
かつては綺麗に映った薄紅色も、春の香りがする風も、もう俺には感じられない。
舞い落ちてきた花弁は、ただのちっぽけな欠片。
春風もただ鬱陶しいだけ。
もう俺の目に映るもの全てが、モノクロになってしまったのだから。
その時、桜の木々の間を強い風が一瞬にして吹き抜けた――。
モノクロな世界に勢いよく舞い上がるちっぽけな欠片たち。
欠片の大群に皆が足をとめ、まるで今は静止画のようだ。
――だけど、俺は欠片たちの間から一人の少女を見て息をのむ。
白と黒しか存在しない世界に見た鮮やかな一輪の花のように。
「――星……羅……?」
……嘘だ……。
あるはずがない。
なのに、何で色付いて見える?
隣で笑うお前がいなくなってから全てがモノクロになったのに。
何でまた現れる……?
もう一度目を擦って同じ場所を見たら、もう消えていた。
あぁ、俺の幻覚か――。
―――――――
――――
俺は頬杖をつきながら、窓という額縁に切り取られた外の風景をぼんやり眺めてみた。
この一春を生き急ぐようにただ花をつけ散らせる桜。
能天気に青い空。
気ままに浮く雲。
何の面白みもありはしない。
それなのに何で、つまらない景色に目をやっているのかといえば、今朝の桜の木の下を確認するため。
もちろんあの木の下には、誰もいないし、何かの痕跡もなさそうだ。
バカとしか言いようがないな、俺は……。
あり得もしない期待をしていたのか、それともついに幻覚を見たのか。
どっちにしたって笑えるよな。
「おい、サボり魔!」
浸りきっていた自分の世界から、この鬱陶しい耳障りな声に喧騒の世界へと引き戻される。
「……何だよ?」
低めの声で面倒くさく言い、その鬱陶しい声の主へと目を向ける。
ちんちくりんな体を少しでも威圧的に見せようとしてるのか、ない胸を無駄に張り両手を腰に当てている。
コイツは幼馴染で高2の紺野千秋だ。
キャラメル色のボブヘアーに不釣り合いな童顔な顔は、思いきり頬を膨らませ俺を睨んでいた。
「ほら!今日こそ部室行くんだから!」
無理矢理腕を引っ張られ引きずられる俺。
「俺は行かないって言ってんだろ」
「つべこべ言わず、どうせ暇なんだから来なさいよ!」
俺が何を反論したところでびくともしない。
千秋は見かけによらず馬鹿力なんだ。
目の前に見えたのは、俺にとっては重い扉。
それを千秋は片手で簡単に開け放つ。
何で俺が今更ここに来なくちゃならないのか。
そんな気持ちなど無視して、千秋は俺をその空間へと放り投げた。
――もう足を踏み入れたくもない場所。
かつての“俺”が……、“夢”がいた場所だ――。
もう俺はここに来る気なんてなかったのに。
「おっ、来てくれたのか、奏斗」
耳に入ってきたのは低く落ち着いた声。
しっかりとした体格に、黒髪に金のメッシュを入れている。
その男は黒のジャズべを置きながら、切れ長の目を穏やかに崩し笑顔を向けてきた。