「バレたからって、素を全開にしなくてもいいのに」

 「今更、気なんて使う必要はないだろう」

 「とにかく、ヒドイ扱いはするなよ?」

 「お前に言われる筋合いねぇーよ。幻滅したけりゃすればいい」

 そう言った後の会長が、一瞬、影があるように見えた。
 ほんの僅かな変化だったけど、それがなんだか、妙に気にかかって――。



 「別に……幻滅はしない、です。驚きはしましたけど」



 素直に、思っていることを口にしていた。
 幻滅と言うよりは、本当、驚きの方が正しくて。
 それに、人にはそれぞれ裏があるっていうか……なかなか、他人には見せれない本心のようなものがあると思うから、梶原先輩がこういう性格の人だからって、別にいいと(からかわれるのは嫌だけど)思う。

 「真白ちゃん、志貴のこと嫌いにならないの?」

 「嫌いもなにも、別になんとも……」

 「あははっ、なんともって! じゃあ幻滅どころか、はなから相手になんてしてないってわけなんだ?」

 相手にしてないって……そこまで言ったら、失礼だと思うけど。

 「だ、だから、特にこれといってないんです」

 それに賀来先輩は、楽しそうに食事をしていた。どうやら、先輩にも私が面白い人に見えているらしい。
 なんだかんだで話しかけてくれるから、思ったより気まずい雰囲気にはならずに食事が進んでいく。
 これなら一応……うまくやっていけそう、かな?
 梶原先輩と二人きりにならなければ、なんとか乗り切れそうな気がしてきた。



 「? 珍しいな。ここに女子がいるなんて」



 ドアが開いたと思ったら、そんな声が耳に入る。振り向けば、そこには見覚えのある男子生徒がいた。
 確か……晶(あきら)先輩、だっけ?
 パッと見の冷たい雰囲気に、耳にかかるほどの真っ黒な髪。
 間違いでなければ、目の前にいるのは中学で文化委員をしていた時、一緒に作業をした城野晶(じょうのあきら)先輩だ。

 「晶先輩、ですか?」

 「なんでオレの名前を知ってる?」

 「あっ、中学の時、一緒に文化委員をした望月です。それで知ってまして」

 「――――あぁ、あの時の」

 思い出したのか、先輩の表情がやわらぐ。
 賀来先輩の隣に腰掛けると、晶先輩もお弁当を手にして食べ始めた。

 「ここにいるってことは、生徒会に入った?」

 「はい……一応」

 「真白ちゃん、志貴の裏バージョン見ちゃったんだってさ」

 災難だよねぇ~と、賀来先輩は笑う。
 それにどう答えていいものかわからず、私はただ、苦笑いを浮べるしかできなかった。

 「ま、そうでなきゃ、志貴がここに部外者を入れるわけないか。――志貴、手荒に扱うなよ?」

 「んなこと、晶に言われる筋合いねぇーよ。ってか、昨日から望月は、オレの所有物」

 こ、今度は所有物ですか……。
 もう反論の眼差しを向けるのも疲れてしまい、私は黙々と、手にしているお弁当を口にした。さすがに一つ食べるのが限界で、後は自分のお弁当から、デザートだけをつまむだけで食事を終わらせることにした。

 「ねぇ、それって真白ちゃんの手作り?」

 興味があるのか、賀来先輩は笑顔で私のお弁当を見る。

 「は、はい。自炊、してますから」

 「料理、得意なの?」

 「そうですねぇ。一応、小さい時からしてますから」

 「お、じゃあ期待できるじゃん! それ、食べないなら貰っていい?」

 「えっ、構いませんけど……」

 というか、まだ食べるんですか!?
 既にお弁当二つを食べているというのに、賀来先輩のおなかはどうなっているんだろうと、驚きを隠せない。
 そんなことはお構いなしに、賀来先輩はひょいっと出し巻きを一つ口にする。
 よく考えたら……男子に食べてもらうのって、初めてだ。
 マズくないかと心配していると、賀来先輩の表情は変わらず、笑顔のまま。

 「……口に、合いますか?」

 おそるおそる聞いてみれば、賀来先輩はニコッと笑顔を見せ頷いた。

 「オレ好みだね。ってか、志貴も気になるなら食べればいいのに」

 梶原先輩の方を見れば、いつからこっちを見ていたのか、目が合ってしまった。それに少し驚いていると、梶原先輩は視線を逸らすことなく、言葉を発した。