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 「お、いたいた。―――君、望月さんだよね?」



 お昼休み、見慣れない男子が話しかけてきた。
 淡い茶髪に、明るい雰囲気。顔は中性的で、綺麗な印象を受ける。
 思い返してみても、こういう知り合いはいない。
 ネクタイが青い、ってことは……三年?
 こういう先輩に心当たりがない私は、余計目の前の人が誰なのかわからないでいた。

 「そうですけど……何か、用事ですか?」

 「志貴に頼まれてね。生徒会室に来てくれない?」

 「これから、ですか? 私、まだお昼が……」

 「それなら向こうで食べたなよ。あと、これは志貴からの伝言」

 な、なんだか嫌な予感……。
 昨日の今日だから、どんなことを言われるんだろう。

 「志貴がね、「今すぐ来い。来ないとどうなるか……」だってさ」

 ニコッと、笑顔で言う先輩。
 あまりにも爽やかに言われ、私はただ苦笑いを浮かべているしかできなかった。

 「急なのはわかるけど、来てくれないかなぁ~? ね、お願い!」

 目の前で手を合わせられ、私は慌てて、そんなことはやめてほしいと言った。
 ただでさえ目立つ容姿の先輩なのに、頭を下げさせたとなれば、変な噂が立ってしまうかもしれない……そんなことは、できるだけ避けたい。
 急いでお弁当を手にし、呼びに来た先輩と共に、私は生徒会室へと向った。



 「――――やっと来たか」



 ドアを開けるなり、そこにはなんとも不機嫌な梶原先輩が。何がそんなに嫌なのか思っていると、一緒に来た先輩が、机に置かれている物を指差す。
 あれって、お弁当?
 そこには、可愛らしい入れ物のお弁当箱が五つ。物からして先輩たちのではないだろうし――そう考えると、思いつくのは一つ。これはきっと、梶原先輩への差し入れだと。

 「望月、これ食べるの手伝え」

 「私を呼んだのって……」

 「これの為だ」

 変なことを頼まれなくてよかったと、安堵のため息がもれる。
 まだ席に座らない私に、梶原先輩は早く席に付いて食べろと促す。
 それに頷くと、私は先輩とは一つ間を空けて座った。さすがに、真隣で食べるのは緊張する。
 自分のお弁当は、帰ってからにしようかな。
 机の端に置き、目の前にあるお弁当の中から、比較的小さめの物を選ぶ。
 その時ふと、梶原先輩に視線を向けて見ると……先輩は、自分が持って来たと思われるお弁当を食べている。もう一人の先輩は、差し入れのお弁当に手を付けているのに、梶原先輩は、触れようともしなかった。

 「志貴は、他人からの貰い物は食べないんだよ」

 疑問を感じていると、一緒に来た先輩が真横に座る。それに驚いていると、先輩は構わず話を続けた。

 「何が入ってるか分からないし、そーゆうのはニガテなんだよ」

 「隼人(はやと)、余計なこと言うな」

 「なんだよ、ちゃんと話してやらないと悪いだろう? お前が冷たいから、優し~いオレが説明してやってるっていうのに。――あ、オレは賀来隼人(かくはやと)。よろしくね」

 笑顔で自己紹介する先輩に、私もよろしくと言って、少し頭を下げた。
 そういえば……昨日も、貰ったのを捨ててたんだっけ。
 梶原先輩の気持ちもわかるけど、無闇に捨てたり、一口も手をつけないのは……やっぱり、相手に悪いんじゃないかなぁって思ってしまう。

 「オレとしては、食費が浮くから助かるんだけどねぇ」

 既にお弁当の半分を食べ、賀来先輩は次なるおかずを物色中。
 その隙に席を移動しようとすると、肩に手を置かれ、爽やか笑顔の先輩に捕まってしまった。

 「どこ行くの? ここで食べればいいのに」

 「こ、この教室では食べます。でも……」

 男子の近くでは、恥ずかしくて食べれない。
 みるみる顔が熱くなり、今きっと、真っ赤になっているんじゃないかって思う。

 「ん? 急に黙っちゃってどうしたの?」

 「だ、だから……」

 「あ、顔赤いよ?」

 や、やっぱり赤くなってるんだ!
 言われたら余計、顔が熱くなっていくの感じた。

 「――隼人、望月は男に免疫がないんだ。離れてやれ」

 「えっ、マジで? じゃあ離れるよ。ごめんね?」

 「い、いいえ。――こちらこそ、すみません」

 梶原先輩からそんな言葉を言ってくれるなんて、思ってもみなかった。てっきり、そのまま放置されるものだと思ってたのに。

 「志貴にしては優しいじゃん。気ぃー使うなんてさ」

 友達から見ても珍しいんだ。
 よっぽどなんだろうなぁと思い梶原先輩に視線を向ければ、

 「望月はオレの。からかっていいのもオレだけ」

 耳を疑うような言葉に、私はその場で固まった。
 お、オレだけって……。
 しかも、これからからかわれること決定!?
 拒否権はないものかと視線を向ければ、怪しい笑顔でこちらを見るなり、

 「逃げようなんて思うなよ? つーか、昨日同意しただろう?」

 悪魔のような笑みを、再び浮かべていた。
 いや、あれは同意もなにも!
 ただの脅しです! と言いたかったけど……梶原先輩の視線が怖くて、私は頷きながらも、後ろへ避難して行った。
 あの目で見られると、怖くて何も言えない。