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「はぁ~……やっぱりくっついちゃったのね」
先輩が帰った後、紫乃ちゃんの部屋で夕食を食べながら、私は帰ってからのことを話していた。
「ま、あのこと話しても態度変えないのはよかったけど」
「うん。体のことは、まだ詳しく話してはないけど……知っても、気にしないからって」
「さっそくノロケですか? 結構惚れてるんじゃないの?」
「ま、まだそんなには……」
「でも、付き合っていいなぁって思ったんでしょ?」
それに頷けば、紫乃ちゃんはやっぱりね、と笑みを見せる。
確かに思ったけど、紫乃ちゃんだって、賀来先輩と何かあったみたいだし。
「し、紫乃ちゃんだって、いいことあったんでしょ?――賀来先輩と」
「!?」
賀来先輩の名前を出した途端、紫乃ちゃんは少し慌てた。
あ、やっぱり何かあったんだ?
よく見れば、頬がちょっと赤い気がする。
「わ、私のことはいいから……」
うわぁ~珍しい。
紫乃ちゃんがこんなにもじもじするなんて、滅多に見られるもんじゃないよ。
「もしかして、前に言ってた人が――賀来先輩?」
高校に入る前、一度だけ、紫乃ちゃんの恋について話したことがある。これまでそういう話題が無かったから、その時のことはすごく覚えていた。
「…………」
「隠したいならいいよ? でも、協力できることはするからね」
いつも助けてもらってばかりだし、こういう時こそ、力を貸さなきゃ!
「もう、なんでこういう時は鋭いのよぉ。――そうだよ。あの時話したのが、賀来先輩」
「へぇ~。なんだか、想像できないかも」
それは、今の先輩がこう……軽いというか、女子に手馴れている気がして。聞いていたイメージとは、ちょっと結びつかなかった。
「元はと言えば、先輩があーゆう軽いふうになったの、私に責任あるんだよね」
「そうなの? でも、紫乃ちゃんが原因って」
思い当たる節が、無いわけではない。あるとすれば多分――。
「髪……切られた時、とか?」
おそるおそる聞けば、紫乃ちゃんは頷いて答えた。
「実は三年の時に一回、先輩からの告白断ってるんだよね。あ、別にいつもみたいに軟弱だからって理由じゃないよ? なんていうか……付き合うとかって、あんま意識してなかったから」
その話は――初耳だ。
まさか、二人がその時から接点があったなんて。
私は少し驚きながらも、続きを黙って聞いていた。
「しかも、大声で言われたのよねぇ。――その時梶原に用があって、高校で待ってたんだけどさ」
視線が痛かったなぁ~と、紫乃ちゃんは苦笑する。
その時の光景が容易に想像でき、どれだけ恥ずかしかっただろうと、気持ちがわかる気がした。
「いきなりだったから、こっちもつい大声で「ごめんなさい!」って言って逃げちゃって……ま、それが悪かったのかな」
「それが原因、なの?」
「ははっ。本当、女子って単純だよね? そのせいで先輩傷付けちゃって、私もあんなことになったけど……別に、先輩を恨むとか無いのにさ。ただ周りが騒いだせいなのに、私も先輩も言えなくてね。それが今日話して、和解に至る、と。――以上!」
締めくくりと言わんばかりに、紫乃ちゃんは笑顔を見せる。
そっか、ちゃんと話せたならよかった。
あれ? でも嫌いで断ってないなら、二人の関係って……。
「結局、先輩とくっついたの?」
「っ!?」
ノドを詰まらせたのか、紫乃ちゃんはお茶の入ったコップを急いで手にし、口へと流し込む。そして何度か咳をし、呼吸を整えた。
「ご、ごめん……変なこと聞いて」
「い、いや。こっちも、過剰反応して悪かったわ。えっと……多分、お互い嫌いではない、かな? でも、付き合うとかは」
分からないと、紫乃ちゃんは首を傾げる。
勿体ないなぁ~。
紫乃ちゃんと先輩なら、お似合いだと思うのに。
でも、こっちから色々言ってもしょうがないか。
「ふふっ。久しぶりに紫乃ちゃんの恋愛話が聞けて楽しい」
「もう。こーいうのはいつも真白の役なのに」
「たまには私だって、聞き役になりますよ?」
「調子に乗らないの! さぁ~て真白。続き、聞かせてもらいましょうか?」
「えっ? 続きって……」
「話した後のことよ。アイツが何もしないで帰るわけ無いからねぇ~」
どうなのよ? と、紫乃ちゃんは真横に席を移動し、詰め寄って来た。
さ、さすがは身内……。
何も無かったなんて嘘は、通じそうにない。
「え、えっと……」
「ん~? 何があったのかなぁ?」
ニヤニヤとした表情で私を見る紫乃ちゃんに、私は梶原先輩を思い浮かべた。
こうやって迫って来る?感じが、なんだか似ている気がする。
「…、……」
「聞こえないよぉ~?」
「も、もう! わかってるくせに、言わせないでよぉ」
「あははっ。やっぱり真白は分かりやすい。そーんな顔真っ赤にしてたら、丸分かりだね」
「だ、だったら聞かなくても……」
「直接聞くから楽しいんじゃない」
それからも、何だかんだで質問は続いて……恋愛話に花を咲かせながら、その日の夕食を楽しんだ。