「…………」

「?――先輩?」

 腕を揺らされ、ん? と短い返事を返す。

「どうかしたか?」

「いえ。しゃべらないから、どうしたのかと思って。――疲れて、ますか?」

 斜め上を向き、真白はオレを見た。
 途端、理性が崩壊しかける。
 そんな目で見られたら……っ!
 気持ちを抑えられても、体の反応はどうしようもない。
 なんとかバレないよう、少しだけ、オレは真白と距離を開けた。

「――ま、ちょっとはな」

 真白に前を向かせ、再び頭に顎を乗せる。
 反応するから離れようと思ったくせに、なかなか離れる気にはなれない。だが時間をみれば、そろそろ本当に帰らなければならない時間になっていた。
 助かったような、残念なような……。
 複雑な気持ちを抱えたまま、オレは真白の部屋を後にした。



「?――――あいつ」



 帰り道、見慣れた姿を目にした。



「――――隼人!」



「?――あれ、今帰りなんだ」



 ニヤニヤと怪しげに笑い、どーなったの? と、隼人は聞いてくる。大まかに説明すると、よく我慢した! と、なぜか褒められてしまった。

「オレなら速攻でアウトだね! いやぁ~志貴はよく頑張ったよ」

 うんうん、と一人納得する隼人に、オレは軽く頭を叩いた。

「あんま言うな。こっちは生殺しだったんだからな」

「ははっ。ごめんごめん。でも、真白ちゃんってそーいうことニガテってぽいし、我慢は続きそうじゃない?」

「別に、こっちからしかけるつもりはねぇーよ。――無意識だから困るんだ」

 理性が追い付かなくて、いつか失態を犯してしまわないかと不安になる。

「そーいうパターンは困るよねぇ~。でも、無意識だからこそ、余計ぐっときたりするんだけど」

「確かに。計算するやつなんて、うんざりだからな。――で? そっちはどーなったんだ?」

 今頃帰るってことは、こいつも藤原の家にいた可能性が高い。問い詰めれば、渋々ながらも、隼人は観念したように話し始めた。

「志貴の予想どうり。しばらく紫乃ちゃんの家、いたよ。でも、ホントに手は出してないからな?!」

「誰もそこまで考えてねぇーから」

 聞けば、どうやら藤原と和解したらしい。
 ようやく話しあったのかと呆れる反面、なんだか安心する気持ちになった。

「あれでも女だからな。やさしくしてやれよ?」

「なんだよそのセリフ。オレは女の子には優しいっての!」

「藤原をその他大勢と一緒にするつもりか? ま、一応は身内だからな。――あいつのこと、頼むぞ」

 ぽんっぽんっと肩を叩き、激励(げきれい)の言葉をかける。
 すると隼人は、予想どおり慌てた反応を見せた。

「頼むって言われても……。いや、紫乃ちゃんが迷惑とか、そんなんじゃないからね!?」

 本人がいるわけでもないのに弁解する隼人。
 それがおかしくて、笑いながら寮へ帰って行った。