「オレは、お前を嫌ったりしねぇから」



 そっと囁かれたそれは、とても熱を帯びていて。
 艶のある声に、私の心臓は一際大きく跳ね上がった。

「ほん、とう……ですか?」

「あぁ、約束する。それに真白が嫌がれば、手は出さない」

 まっすぐ目を見ながら言う先輩に。私もなんとか言葉を口にしようとする。

「そうしてもらえると……うれしい、です」

「そっか。――なぁ、真白」

 小さく首を傾げると、先輩は私の髪の毛に触れる。

「お前は、どう思ってるんだ?」

「ど、どうって……」

「オレも、言葉にしてほしいんだが……ダメか?」

 そんな声で言うなんて……卑怯だよ。

「…、……」

「ん~? 聞こえない?」

 こ、こんなに間近で言うのは恥ずかしいけど……でも、先輩だって言われたいだろうし。
 意を決して、私はさっきよりもハッキリ、言葉を口にする。



「少し、は……先輩が、好き、です」



 その言葉に満足したのか、先輩は満面の笑みを浮かべてた。

「ははっ。「少しは」ってのが、真白らしいな。ま、もっと好きになるようにしてやるから――覚悟しろよ?」

 そう言って、先輩は額に、軽い口付けを落とした。
 ここまで密着してるのに、怖いとか本当になくて。
 まだぎこちないけど、私はこの瞬間から、先輩の彼女になった。

 *****

 自分の寮へ帰る時間が迫る。
 ここから割と近いが、ようやく真白が手に入ったってのに、すぐに帰るのはつまらない。

「あ、あのう……先輩?」

 恥ずかしそうに、真白が呼ぶ。

「もう夕方ですけど……帰らなくて、いいんですか?」

「なんだ、そんなに早く帰ってほしいのか?」

「ひゃっ?!」

 ふっ、と耳元に息を吹きかければ、真白の頬はより一層赤くなった。

「そ、そんなことするなら、離れますよ?!」

「ははっ。悪い悪い」

 隣から離れようとする真白を引き止め、足の間に座らせる。背後から抱きつく体勢になり、真白の頭に顎を乗せた。

「やっぱ、この感じいいな」

 抱きしめられるし、悪戯もできる。
 ま、後者が少し勝ってるがな。

「真白はどうだ?――こーいうのは、嫌いか?」

 ぎゅっと、腕に力を入れる。
 まだ慣れないのか、真白は俯いたまま。何も答えないつもりか? と思っていれば、真白の両手が、オレの腕に触れる。

「嫌じゃ……ないです。でも」

 微かに、後ろを向く真白。顔は見えないが、頬が赤いなというのは見てわかる。

「は、恥ずかしくて……変になりそう、です」

 言い終わるなり、真白は前を向き俯いてしまった。
 ……やばっ。
 今の、なんかきた。
 しかも今度は、オレの腕掴んでやがるし。
 別に深い意味なんて無いんだろうが……こーいう無意識な攻撃は、男にとって毒だ。
 理性は保てたとしても、生理的な物が抑えられればいいんだが。
 自分でこーしてくっついておきながら、今は少し、この体勢になってしまったことを悔いた。