「信じて……みよう、かなぁって」



 言った後に俯くと、しばらく反応が無い先輩。
何も言わないなぁと思い、チラッと視線を上げて見れば――顔を背け、少し、頬を染めた先輩が目に映った。



 ……カワイイ、かも。



 なかなか見れない先輩の表情に、今までとは違った意味で、胸がドキッとするのを感じた。



「先輩でも、赤くなるんですね」



「……誰のせいだよ」



 視線が合ったと同時。間近に顔が迫り、おでこをこつんとくっつけられてしまう。

「真白が、カワイイこと言うからだ」

「べ、別にそんなっ……!」

「そんなこと言われたら、したくなるだろう?」

 少しでも動けば、あっという間に唇が触れそうな距離。でも先輩はいつものように迫らず、その距離を保ったまま。
 いいって言うまで、本当にしないの?

「が、我慢……ですか?」

「お前がいいって言うなら、すぐにでもするけど?」

 ニヤリと、怪しく口元を緩める先輩。
 すっと片手を頬に添え、優しく撫でるだけで、本当にいつものように迫ってこない。

「…………」

「…………」

 なんだか……もどかしい。
 期待していたのか。
 それとも慣れてしまったのか。
 ここまで近いのに、なんだか、ちょっと悲しく感じてしまう。

「ふふっ。どうかしたか?」 

「…………」

 まるで、私の反応を楽しんでいるかのような言葉。
 でも、自分から言うのは恥ずかしくて。
 どうしたらいいんだろうと戸惑っていれば、

「しても……いいのか?」

 先輩の方が先に、言葉を発した。

「そ、それは……」

「無理やりはしないが……何も言わないと、わかるよな?」

 わ、わかってる、けど。
 嫌だなんて思わないし、むしろ今は。

「……少し、は」

「? 少しは、どうした?」

「…………」

「嫌じゃ、ないんだな?」

 なんとか小さく頷き、嫌でないことを伝える。
 すると、あっという間に後ろ頭を押さえられ、唇は塞がれてしまった。
 あの夜のように激しく、また、口の中に舌が入ってきて……思わず、吐息と共に声がもれてしまう。



 や、やっぱり、おかしくなっちゃう……。



 頭がぼぉーっとして、他の事が考えられない。
 もう片方の手は頬を撫で、触れられた部分が、熱を帯びていく感じがした。
 さっきお預けになってしまった分も取り返すかのように、何度も繰り返されるキスに、私はまた、体が痺れてしまうような感覚を味わっていた。



「――これ以上は、ヤバいな」



 抑えが利かなくなりそうだと、小さく笑いをもらす先輩。私はまともに顔を見れなくなり、先輩から顔を背けた。すると、体が後ろへと倒れ――先輩が、私に覆いかぶさる体勢になっていた。
 驚きはしたけど、まだ余韻が残っているせいか、怖いとか、そんな感覚は湧かない。あるのは、先輩が妙に色っぽいなぁって、そう思ってしまうぐらいだった。