「――話は、それで終わりか?」



 ぽん、と頭に重さを感じる。
 そのまま撫でられ、ゆっくりと視線を上げて見れば……辛そうな表情の先輩が、目に映った。

「嫌なこと言わせて、悪かったな」

「話したいって、勝手に、思っただけですから」

「それでも、嫌な思いをさせたのには変わりねぇから。――ありがとな」

 背中を包むように、そっと、優しく体を引き寄せられる。
 一定のリズムで背中を擦りながら、先輩は、ゆっくりとした口調で言葉を発した。

「前にも言ったとおり、知ったからって、離す気なんてない」

 ……本当、なのかなぁ。
 利用しようとか、体だけが目当てだとか。
 そういう下心は無いのかと、まだ疑ってしまう。

「真白が嫌だってなら、キスだって我慢してやる。それぐらい、オレは真剣なんだよ」

 我慢って……。
 それって、先輩にとって辛そう。
 今まで、隙あらばって感じだったし。
 それを我慢してってことは、それだけ真剣ってこと――?

「ま、一応健全な男子だし、いつかはそういうことできればってのもあるが――真白がいいって言うまで、待つ自身はある」

 耳元で言われた言葉に、私は、翠先輩の言葉を思い出した。



『だからこそ、ちゃんとそういうことを待ってくれる人を選ぶことね。――その辺りは、志貴くんちゃんとしてるはずよ』



 ちゃんと、待ってくれるの?
 キスはできても、ずっと待たせてしまうかもしれないのに……。



 そんなことをしてもいいのかと、不安が体を包んでいた。

「…………」

「オレのこと、信じられないか?」

 少し悲しい音声が、耳に入る。
 それに私は、小さく首を横に振った。

「だだ……怖く、て」

「何が、そんなに怖いんだ?」

「いつか……嫌われるんじゃ、ないか、って」

 次第に体が震え、自然と、先輩にしがみついていた。

「できないからって、嫌ったりしねぇーよ。もちろん、体のことでどうこう言うつもりもな。――だから、安心しろ」

 大丈夫だからと、先輩は優しい言葉をかけてくれる。



 本当に……いいの、かな?



 あのことを話しても、先輩は反応を変えない。
 それに、少しは好きだと思う感情があるわけだし――考えて、みようかなぁ。



「……ちょっと、は」



 ぎゅっと先輩の服を掴みながら、少し視線を合わせながら言葉を発する。
 それに先輩は、ん? と短い返事をして、続きの言葉を待つ。