「……あ、あのう」

「やめてほしいのか?」

「今、は……話しを、聞いてほしくて」

 次第に声が小さくなり、恥ずかしいという気持ちよりも、怖いという気持ちが勝っていく。



 もしかしたら、また……。



 嫌な考えが、頭の中を巡る。でも、このままにしておくのはよくないって思うから……ちゃんと、話さなきゃ。

「聞いて、くれますか?」

 恐る恐る目を合わせれば、先輩はやさしい表情で頷く。それを見て、私は大きく深呼吸をした後――あのことを、話した。

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 始まりは、いつからだったのかもわからない。
 体が思うように動かなくて、長く眠る日が続いた。病院に行っても原因が掴めず、倒れたり、死んだように反応を示さない私に、両親(特に母親)は不安を募らせていった。
 そのせいで両親はよくケンカをし始め、挙句の果てには離婚。
 私の、せいで……。
 こんな体になってしまったから、二人は別れたんだと悔やんだ。
 実際お母さんからは、産まなきゃよかった、なんて言われてしまって。自分を責めずにはいられなかった。
 なんとかこの体とも折り合いをつけながら生活していたものの、周りの手助けが必要。特に、紫乃ちゃんからには助けられてばかりだった。
 なかなか理解してもらえない病状だから、紫乃ちゃん以外の人には言えなくて……そんな中、一人の男子が、私に告白をしてきた。
 その人は、体が弱くても気にしない、むしろ、自分が助けるからと言ってくれて。
 だから、私はその人と、付き合ってみることにした。
 この時は、まだ男性が苦手じゃなかったけど――あの日、一緒に帰ったことが、始まりだった。
 その日も一緒に帰っていて、たまたま体調が悪い兆しがあり、私は彼氏の家で休ませてもらうことに。家には親がいると聞いていたし、警戒なんてしてなかった。



 ……それなのに。



『付き合ってるんだからさぁ』

 部屋に入るなり、彼は私に詰め寄る。

『いいでしょ? それとも……俺のこと、嫌い?』

 彼は、エッチをしようと言ってきた。
 もちろん私は断った。いくらゴムを付けるからとか言われても、そんな気になれなかったから。
 それに、嫌だと言う言葉を無視して、そんなことをやろうという彼の言葉が信じられなかった。

『体調悪いのだって、やってれば治るって』

『い、いや、だよ……!?』

 そんな言葉を無視し、彼は私を押し倒すと、スカートの裾に手を入れた。
 必死に抵抗して、もう、何がなんだかわからなくて……気が付いた時には、紫乃ちゃんがそばにいてくれた。
 紫乃ちゃんの話だと、彼は私の体のことを知り、すぐにやれるとふんでいたようで。それがなかなかキスもできないことに苛立ち、強硬手段に出たらしい。
 これでも充分なのに、嫌なことはさらに続いた。
 それは、学校でのカウンセリング。
 家庭や彼のことで不安定な私を心配して、保健医の先生が親身になってくれたのがきっかけ。
 男の先生ではあったけど、最初は女性である保健医の先生が同伴してくれて――次第に、まともに話せるようになった。
 必要以上に近付いたり、長く話しているのはまだ怖いけど、それでも、最初に比べたら普通にできるようになった時、またしてもそれは起きた。
 ここまでくると、不幸って重なるもんなんだなぁって、ちょっと他人事のように思ってしまう。
 女の保健医の先生がいない時……もう一人の先生は、私に必要以上に触れるようになっていた。最初は、自分の考え過ぎだと思った。体の緊張を解すため、そうすれば血行もよくなるし、体調を整えるのにいいからと。



 ――でも、実際は違う。



 先生は、女子中学生に興味があったみたいで……大事には至らなかったけど、それが余計、男の人を拒絶する原因を作った。



 だから私は……男の人が、苦手になったの。



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 ようやく話し終えた時、目からは、涙が溢れていた。
 何度拭っても、涙はなかなか止まってくれなくて。それだけ、あのことが未だ鮮明に、嫌な記憶としてあるからなのかもしれない。

「そ、それに。一緒に居ても、また、体が悪くなってしまうかもしれないし……」

 長く寝てしまって、それで一緒に居れないのが嫌とか言われたら、すごく悲しいよ。