「いや、オレは別に……」

「へぇ~。じゃあ何か? お前は望月に気があるのか?」

「いや、そーいうわけでも……」

 こいつもハッキリしないなぁ。
 早く素直になりゃいいのに――?
 話の最中、携帯が点滅する。見ると、珍しく藤原からのメールが入っていた。
 また愚痴でも言われるのかと思えば、愚痴は愚痴でも、予想したのとは違うものだった。

【真白と買い物に来てるけど、さっきから、男につけられてるっぽいの】

 その内容に、嫌な予感がした。
 和泉が帰って来たということは、もしかしたら……。
 真白に、何かするんじゃないかと。

「……志貴?」

「……街に行くぞ。お前も来い」

「ちょっ、説明しろって!」

「真白と藤原、男につけられてるらしい」

 外へと歩きながら、オレは大まかなことを隼人に言った。

「それってヤバいじゃん!」

「だから急ぐんだよ。ほら、走るぞ!!」

 この際、移動手段なんて選んでられない。
 街へ行くなら、タクシーを使った方が早いだろう。
 オレたちは乗り場へと行き、駅近くで下ろしてもらうことにした。その間に、オレは藤原にメールをし、駅に来るようにと伝える。すると短い返事で、了解、とだけ返ってきた。
 取り越し苦労ならいいが……マジで、何かするんじゃねぇーだろうなぁ。
 和泉の性格からしたら、考えられなくもない。
 現に、浅宮を追い込んだ経験があるんだから。
 タクシーを降りるなり、オレたちは二人が向って来るであろう道に向った。

「オレ、警官連れて来るから」

「そこまでしなくていいだろう」

「誰かさんが、手出しする可能性あるだろう?」

 念の為だよ、と言って、隼人は駅近くの交番へと走って行った。
 オレはそのまま進み、二人がいたであろうデパートに到着する。だが、ここに来るまでに姿は見当たらず、違う道だったのかと、もう一つの出口がある道へと走った。

 ◇◆◇◆◇

 今、すごく面倒なことになってる。
 デパートで紫乃ちゃんをナンパしていた人が、再び、目の前に現れたのだ。――しかも、相手は二人に増えている。

「遊びませんって、さっきも言いました。ほら、行こう」

 私を背にかばいながら、紫乃ちゃんは手を引いてくれる。早く立ち去ろうとした途端、

「そ~んな逃げることねぇのに」

 もう片方の手を、男の人に掴まれてしまった。

「そうそう。二対ニなんだから、ちょうどいいじゃん!」

「は、離して下さい……!」

 ぎゅっと目をつぶり、思い切って声を出す。
 けれど、その反応がいいのか、私の手を掴んだ男性は楽しそうな声をしていた。

「お、ほっぺ赤いよ? 緊張しなくていいからさ、ほら」

「っ!?」

 ぐいっと手を引かれ、紫乃ちゃんの手から離される。そして体は、手を引いた男性の元へと引き寄せられてしまった。

「ちょ、ちょっと、こっちは嫌だって言ってるじゃないですか!」

 紫乃ちゃんはもう一人の男性と口論していて、とてもこっちにまで手が回らない。なんとか自分で逃げようとするものの、しっかりと掴まれていて、じたばたともがくだけで精一杯な状態。

「そ~んな暴れないでよ。ほら、オレらと遊ぼう?」

「あ、遊びません……!」

 香水がキツくて、触れられた部分が、徐々に気持ちの悪いものに感じられる。



 いや、だ……触れられたくない!



 先輩の強引な行動で、少しは慣れてきたと思ったけど。まだ、こうして密着するには無理があった。



 先輩の時とは……全然違う!



 嫌な汗が出て、狂ったように心臓が高鳴る。
 この状況を、不快としか思えない。



「――――おい」



 やけに低い声がしたと同時。鈍い音と共に、私を掴んでいた手が緩められた。
 逃げられると思った途端、またしても体は引き寄せられて……覚えのある感覚が、体を包んでいた。