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結局、私はあれからすぐに眠ってしまい、朝までぐっすりと寝ていた。
翠先輩の話によると、しばらくして梶原先輩が来たらしい。でも私は既に眠っていたので、梶原先輩は渋々(翠先輩の話からすると)戻って行ったと。
だから、今日は私から話しかけてみようと、少しでも話せるチャンスがあればと思っていたけど……。
「梶原先輩、何かお手伝いしましょうか?」
「いや、今は特にないから」
「じゃあ施設内回りましょう! まだ見てない所とかありますし」
昨日の女子二人が、やけに先輩に接近していて。まったくと言っていいほど隙がない。
対応するのに大変そうだし……また、後からにしようかな。
部屋へ帰ると、そこにはお菓子を食べて寛ぐ翠先輩がいた。
「それ……持込み、ですか?」
「え、えっと……」
マズいところを見られたというふうに、翠先輩は珍しく戸惑いの表情を見せた。
「な、内緒にしてくれないかしら?」
バレたら志貴くんに取り上げられる、と先輩は顔の前で手を合わせる。
「言いつけたりしませんから、安心して下さい」
「よかったぁ~。真白ちゃん、話が分かるのね」
それから先輩のお菓子をつまみながら、話を弾ませていた。次第に、話は生徒会のメンバーのことへと移行し。
「それで――志貴くんとはどうなの?」
本題だと言わんばかりに、先輩はにやりと怪しい笑顔で聞いてきた。
「どうも何も……あれから、話をしてないので」
「あら、ケンカでもしたの?」
「その……二人の女子が、先輩のそばにいるので」
「だったら今頃、かなり機嫌が悪いわねぇ~」
近付かないようにしなくちゃと言い、先輩はチョコ系のお菓子をつまむ。
「昨日、志貴くん何かするみたいだったし……これはもう、会ったらキスだけじゃ済まなかったりして」
青春よねぇ~と、先輩は楽しげだった。
そんなのこっちは堪ったもんじゃない。
キス以上だなんて、付き合ってもない人と(キスももちろんだけど)するとか、考えられないよ……。
「私は……付き合ってても、そういうのは嫌です」
初めてだからっていうのもあるけど、やっぱり、男の人とそういうことをするってなったら、かなり密着するわけだし。
――――それに。
いつか、それ以上のことをしなくちゃいけないのが、すごく嫌だ。
「まぁ、最初はそうよね。だからこそ、ちゃんとそういうことを待ってくれる人を選ぶことね。――その辺りは、志貴くんちゃんとしてるわよ」
「……そう、でしょうか」
思わず、疑問の言葉がもれる。
いきなりキスしてくるし、連れて行かれたり……本当に待ってくれる人なのか、ちょっと怪しんでしまう。
「ふふっ。強引だけど、結構一途なのよ」
「一途……ですか?」
「えぇ。確か……小学校の時なんて、三年も片思いしてたわね。振られても、その子の為にって、色々やってたわ」
そ、それは確かに。
というか、今更ながら、先輩はよく知っているんだなぁと思う。
二人は、小学校からの同級生なのかなぁ?
「ちなみに、志貴くんと隼人くんは、小学校からずっと一緒なのよ」
「長い友達なんですね」
「そうねぇ~。ここまで長いのって、あまりいないわ。――だから、二人の恥ずかしい失敗談とかも、結構握ってるのよ?」
ふふっと笑う先輩の顔が、どこか怪しい気がして。
なんとなく、二人は先輩に逆らえない何かを握られているんじゃないかという考えが過った。
「だからもし、志貴くんに仕返ししたくなったら……とっておきの情報、教えてあげる」
ね? と言って、先輩はウインクをした。
一体、どんな弱みを握られているんだろう。
……ちょっと、興味がある。
でも、聞いたら聞いたでいじめられそうな予感がするので、私はとりあえず、その場は聞かないことにした。
お昼の後の会議は、体育祭の種目決め。
午前中に出た案を詰めていき、種目の他に、今年の応援団は自由な衣装を着てやることが決められた。
午後は二回に分けて会議が行なわれ、夕食が済むと、今日はみんなで触れ合おうということで、施設内にある体育館で遊ぶことに。
種目はドッヂボール。
生徒会は環境委員と一緒のチームになり……あの二人の女子も、同じチームとなった。
こうも先輩にベッタリだと、もはや近付くことも躊躇してしまう。