先生から頼まれた資料を抱え、私は生徒会室に来ていた。ドアには鍵などかかってなく、誰も教室にはいない。
 閉め忘れたのかな……?
 とりあえず中へ入り、奥にある会長の机と思われる席に資料を置いた。
 このままにしてもいいのかなぁ?
 開けっぱなしは悪いと思い、どこかに鍵が置かれてないかと見渡していると、

 『――――ごめんね』

 微かに、声が聞こえた。それは奥の部屋から聞こえ、私はそのドアの前で、耳を澄ませてみた。

 「オレ、今は誰とも付き合うつもりないから」

 「だったら……せめて、これだけでも受け取って!」

 ……えっと。
 これっていわゆる、告白の現場……だよね?
 邪魔をしては悪いと思い、そっと出ようとした時、

 「じゃ、じゃあ私、戻るね!」

 大きくハッキリとした声に、私はビクッと体を震わせた。
 こ、こっちに来る!?
 危険を感じた私は、咄嗟に机の下に隠れた。体の小さい自分なら、気付かれることもないだろう。私は息も殺して、ぎゅっと身を丸め潜んでいた。
 パタパタと足早に去る音。
 もう行ったかなぁと顔を出そうとすれば、

 「――ったく。迷惑だってわからねぇーのか?」

 まだ残っていた人物が、部屋から出て来た。
 急いで引っ込むと、近くのゴミ箱に、綺麗にラッピングされた者を投げ入れるのが見えた。
 あれって……さっき、渡された物?
 足音が、徐々に遠退く。チラッと様子をうかがうと、男子生徒は教室から出て行った。
 い、生きた心地しなかったぁ……。
 ようやく安心できた私は、大きくため息をついた。

 「……なんで、捨てちゃったのかな?」

 ゴミ箱を上から覗き、ぽつり、そんなことを呟いた。
 さっきの声と、女子が「志貴くん」と言ったことを考えると、これを捨てたのは会長以外にはいない。けど、会長がそんなことをするようには思えないし。

 「……関係、ないよね」

 人の恋に口出し出来る立場じゃないし、何より、自分には関係のないこと。そう言い聞かせ、私は教室を出た。



 ――まさかこの時。



 「面倒だなぁ……」



 すぐ近くで見られていることなんて、気付きもしなかった。

 ◇◆◇◆◇

 放課後、私は先生から呼び出しを受けていた。別に何もしてないのにと思いながら職員室に行くと、担任の先生が待ってましたと言わんばかりの様子で待っていた。

 「あのう……私、何かしましたか?」

 「いや、そういうことで呼んだ訳じゃないんだ。――望月、生徒会に入ってくれないか?」

 一瞬にして、頭の中には疑問が飛び交った。
 なりたい人なんて、他にもいるのに……。

 「他の先生からの評判もいいし、それに中学の時も入ってたんだろう?」

 「委員と言っても、文化委員ですよ? なのに生徒会だなんて……」

 「生徒会やっとくと、後々就職で有利だぞ? 会長からの推薦もあるし、やってみたらいいじゃないか」

 会長からの……推薦?
 面識なんてないし、目立ったことなんてしてない。なのに、そんな私を推薦だなんて。

 「会長目当てのヤツが多いから、出来るならそういう子にはしてほしくないっていう本人からの希望もあるんだよ。先生たちも、きちんと仕事するヤツに入ってほしいからな」

 話を聞いて、選ばれた理由に納得した。
 会長は確かにいい人だとは思うけど、男子が苦手な私には、それ以上の感情はない。だから先生も、適任だと思ったんだろう。

 「やる気はないか?」

 「ないわけじゃないんですけど……」

 男子が苦手だから嫌、なんて、そんなこと言えない。
 くだらない理由だって思われちゃうだろうし、言ったところで、克服するいい機会だって言われるのが目に見えてる。