「――会長に、何か言われたでしょ?」



 驚き声の方を見れば、いつの間に帰って来たのか。呆れたような表情の紫乃ちゃんが立っていた。

「えっ、と……」

「隠さなくてもいいよ。っていうか、こっちこそ隠しててごめんね」

 首を傾げれば、紫乃ちゃんは話を続ける。

「会長と親戚ってこと。真白は騒がないって知ってたけど、アイツが言うなって言ってたから」

「ううん、別に気にしてないから。その……どこまで、知ってるの?」

 おそるおそる聞けば、紫乃ちゃんは、はぁ~と小さくため息をはく。

「一応、真白がなんで生徒会に入ったか、ってところから」

 そ、それって最初からじゃん!
 紫乃ちゃん、全部知ってたんだ。
 ということは……あのことも、知ってるのかなぁ?

「じゃあ、今日レクで何があったとか、も……?」

 その質問に、紫乃ちゃんは今日一番のため息とも思えるため息をはいてから、まぁねと口にした。

「薄々わかってたことだし。――でも、オススメしないわね。あ~んな強引で俺様なヤツに、真白を大事に出来るのかって疑問だもん! まだアイツが本気だなんて、私には思えない!!」

 まぁ……確かに強引ではあるけど。
 身内にここまで言われるのも、結構すごいことだよね。

「――で、告白されたの?」

「こ、告白って! 別に、そういう感じじゃない、かな?」

 言わせてやる、ってだけじゃあ、完全にそうとは思えないし。

「なによアイツ。肝心なところでヘタレねぇ~」

「――あら、一体どんなお話?」

 部屋に入ると、翠先輩は興味あり気に紫乃ちゃんの隣に来て座る。
 話してもいいかと迷ったけど、先輩は既に、賀来先輩から情報を得ているようだった。

「まぁ、隼人くんの話はちょっと大げさっていうのは分かってるから。――それで、二人はどこまで進んだのかしら?」

「ど、どこまでも何も……」

 賀来先輩……あなたは本当、先輩にどんなことを言ったんですか。
 とんでもないことを言ったのではと思いながらも、私は二人に、レクであった出来事を(キスの部分は伏せて)話した。すると、紫乃ちゃんは呆れたような表情をし、先輩はというと、面白そうだといわんばかりの表情を浮べていた。

「やっぱり、志貴くん動いたのね。もう少し我慢してるかと思ったのに」

 男の子ねぇ~と、先輩は楽しげに話す。
 なんだか……先輩には、色々と見透かされているような(原因は賀来先輩だろうけど)気がする。



「それで……真白ちゃんは、志貴くんのことどう思ってるの?」



 笑顔で聞く先輩に、私はどう反応していいものか戸惑っていた。
 男の人が苦手だから、そういう意味では意識してたけど……恋愛の対象としてなんて、正直見てない。



 私……どう思ってるのかなぁ。



 梶原先輩のことを考えれば、頭に過るのはキスのことばかり。そのせいで、頬に熱が帯びていき、次第に、私は俯いてしまった。

「あら、真っ赤になっちゃって。分かりやすいわねぇ~」

「はぁ~……私は絶対、オススメしないって言ったことだけは覚えててね?」

 これ以上は私が恥ずかしいのもあるけど、お風呂の時間になったこともあり、話は切り上げられた。
 お風呂の後は、みんなで星の観察になっているけど……。



『――今夜、空けとけよ?』



 時間が近付くにつれ、私の頭には、あの言葉が繰り返し流れていた。
 お風呂に入ってても、まるでのぼせたようにぼぉーっとしてしまって……ついつい、ため息がもれてしまう。

「こ~ら、余計なことは考えないの!」

「そんなこと言われても……」

「もう、せっかくの広いお風呂なんだから、満喫しないと損よ?」

「わっ! ちょ、ちょっと!」

 顔にお湯をかけられ、思わず声を上げた。

「じゃなきゃ、もっとかけちゃうから!」

「も、もう。紫乃ちゃんっ!」

 私も負けじと、紫乃ちゃんにお湯をかける。次第に楽しくなって、私たちは笑いながらかけ合いをしていた。