「それ、多分何か入ってたんだ思うよ。久々に聞いたねぇ~その話」

 「昨日も言ってましたけど……その、何かって一体」

 具体的にどんな物なのかというのが気になり訊ねると、先輩は言葉を濁す。

 「まぁ……聞かない方がいいよ。どーしてもって言うなら、食べ終わった後がいいね」

 何を言いたいのかはわからないけど、食後がいいと言う話に、なんとなくこのまま知らない方がいいのではという考えが頭を過った。

 「――なんだ、隼人も一緒か」

 「なんだはないだろう。ってか、話聞いたよ。今日はなしでいいんだよね?」

 「あぁ、全部処分した」

 机には、空になったお弁当箱が並べられていた。
 どうして捨てちゃったんだろうと思いながらも、私は頼まれていたコーヒーと共に、先輩に小銭を手渡した。

 「……つり、多いぞ」

 「や、やっぱり、出してもらうのは悪くて……」

 不服そうな梶原先輩に、なんとか思っていることを伝えた。

 「だから、弁当代って思えばいいんだよ。ほら、素直に受け取れ」

 さっと手を握られたかと思えば、手に小銭を握らされてしまう。それをまた拒もうかと思ったけど……。

 「つーか、今度返したらイジメる」

 「っ!?」

 怪しく笑う梶原先輩を見て、私はその考えを捨てた。
 そして逃げるように席に付き、静かにお昼を食べることにした。
 しばらくしたら晶先輩も来て、昨日と同じような状態。知っている先輩がいるせいか、少しは緊張が解(ほぐ)れてくる。



 ?――――あ、れっ。



 箸を持つ手に、力が入らない。
 徐々に動きが鈍くなっていくその感覚に、私は嫌な予感がした。
 このままここにいたら……。
 ダメだという考えが浮かぶのに、鈍くなる速度が速過ぎる。



 「?――――望月?」



 なんとか立ち上がる私に、梶原先輩が話しかける。

 「教室、に……も、どり―――?」

 頭が、一気に重くなる。
 足取りもおぼつかなくて、一歩を踏み出すのもやっとな状態。
 なんで……なんで今、こんなに重いもの。
 体を支える力も抜けててしまい、ついに私は、その場に崩れるようにして倒れた。



 「――ったく、無理するな」



 誰の……声?
 もう、目の前にいるのが誰なのかわからないくらい、意識が薄れかけていた。

 「保健室行くぞ。隼人、ドア開けてくれ」

 「っ……! ぃ、やだ」

 「倒れたくせに、文句言うな」

 「だ、って……今日、は。――――おとこ、のっ」

 今日の当番が男性の先生だと思い出し、私はどうしても、保健室には行きたくないと懇願した。それは、ただ男性が苦手という理由からだけでなく……どうしても、嫌なことがあったから。

 「ほ、けんしつ……いや、だ」

 「……しょーがねぇーな。隼人、そっちのドア」

 「はいよ。ってか、毛布とかいらない?」

 「いるだろうな。晶は、望月の担任に伝えてくれ」

 声は聞こえるのに、反応することができない。
 背中にはやわらかな感触があり、どこかに寝かされているということはわかるけど。今自分がどこにいるのか、まったくわからなかった。

 「志貴、持って来たよ」

 「サンキュ。隼人、一応藤原にも伝えてくれ」

 藤原?……紫乃ちゃんと、知りあい?
 瞬きをすれば、少しだけ視界がハッキリとしてきて――そばにいるのが、梶原先輩だということに気が付いた。

 「お前……まともに寝てないのか?」

 その質問に、私はゆっくりと首を横に動かし、違うと答えた。

 「ま、仮病じゃないのはわかるが。――しばらく寝てろ。」

 体が、微かに重くなる。どうしてだろうと思っていると、少し、体が温かくなっていくきがして――そこでようやく、何か体にかけてくれたんだとわかった。

 「ここには他のやつは入れない。鍵もかけて出るから、安心していいぞ」

 そっと、頭に重さが加わる。どうやら頭を撫でているようで、先輩はしばらく、私の頭を撫で続けた。それが心地よくて……とてつもない睡魔に襲われてしまい、意識は、そこで途切れてしまった。