翌日、私は言われたとおり、梶原先輩のお昼を作って来た。大きな入れ物がないから、一応、お弁当を二つ持参している。

 「真白、お昼食べよう」

 「ごめんね紫乃ちゃん。私ちょっと……」

 用事があるからと言い、素早く生徒会室へと向った。すると、入り口では数人の女子がいて、梶原先輩にお弁当を渡している最中。
 なんだか、近付き難い雰囲気……。
 あの輪の中を突っ切る勇気はないので、階段でしばらく、みんながいなくなるのを待って、会室のドアをノックした。

 「し、失礼します……」

 会室へと足を踏み入れると、そこには、机にうな垂れるように身を預ける梶原先輩の姿があった。
 気分でも、悪いのかなぁ?

 「あ、あのう……」

 「……? あぁ、望月か」

 視線で私であることを確認すると、梶原先輩は気怠そうに体を起こした。

 「なんだ、ちゃんと持って来たんだな」

 「そ、そりゃあ持って来ますよ……」

 でないと、何をされるかわかったものじゃない。

 「一応、二つ持って来ました」

 「お、気が利くな。――昨日みたいに、好きなの選んでいいぞ」

 目の前にあるお弁当を指さすと、先輩は私のお弁当を開けた。

 「――和食か」

 「嫌い、でしたか?」

 「いいや。しいて言えば洋食が好きだけど。――基本、好き嫌いはない」

 食べ始めるのを見て、私も食べようと、目の前にあるお弁当を手に取り、少し離れて座る。
 今日はまだ、賀来先輩や晶先輩は来ていなくて。二人きりだから、妙に緊張してしまう。
 あっ……手紙入ってる。
 小さな二段重ねになったお弁当の間に、小さな手紙が添えられている。私はそれを手にすると、先輩に手渡した。
 多分見ないだろうけど、だからといって、渡さないのは作ってくれた人に悪い気がするし。
 渋々ながらも、先輩は受け取ってくれた。
 よかったぁ。捨ててこい、なんて言われたらどうしようかと思ったよ。
 席に着き、食べ始めようと手を合わせた途端、



 「――――食うな!」



 突然の大声に、ビクッと体を震わせた。
 なぜそんなことを言われるのかわからなくて、私はその場で固まってしまった。

 「ったく、これだから……」

 イラついた声を出し、先輩はこちらに向って来る。何をされるのかと緊張していれば、険しい表情で、私の前にあるお弁当を奪った。

 「あ、あのう……」

 「これ、まだ食ってないか?」

 「? は、はい……」

 「ならいい。――今日は購買にしろ」

 取り上げたお弁当を置くと、先輩は私に、手を出せと促してくる。それに従うと、手には小銭が乗せられていた。

 「ついでに、コーヒーよろしく」

 「えっ、でも……」

 渡されたのは、明らかにコーヒー代より多くて。戸惑っていると、意外な言葉が耳に入った。

 「奢り。それで昼買え」

 「そ、そんなの悪いですよ!」

 「弁当の代金だと思えばいいだろう。つーか、早くコーヒー。あ、ブラックだからな?」

 そう言うと、先輩は半ば強引に、会室から私を追い出した。
 よくわからないけど……行くしかない、よね?
 でも、さすがに先輩のお金でご飯を食べるのは申し訳なくて。コーヒーだけは、先輩から貰った小銭で払うことにした。



 「――お、真白ちゃん発見~」



 目の前から、賀来先輩が笑顔で近付いて来る。
 先輩も生徒会室に行くのかと聞けば、これから向うらしいので、一緒に行くことにした。

 「そーいえば、なんでお弁当買ってるの?」

 「これは……」

 私は、さっき会室でのことを話した。突然のことで戸惑ったと話す私に、先輩は私のせいじゃないと言って励ましてくれる。