「只の変なおっさんの戯れ言だ。気にしないでいこう」
しかしその言葉は、あの少年も口にしていたものだ。一体何に気付くなというのだろう。
「それで私、気付いちゃったんだけど……」
すると文恵が蚊の鳴くような声で切り出した。
「待てよ、気付いたら駄目だって!」
「戯れ言じゃなかったの?」
「ああ、……でもなぁ」
バイクの二人だけならまだしも、私は少年の言葉を聞いていたので、それが何であるにせよ、妻には気付いて欲しくなかったのだ。
「あのおじさん達……」
「ヤメヤメ! 折角の休日、久々のドライブ、待ちに待った温泉だ。余計なことは考えるな」
「はい……解りました」