「気……ちゃ……無い」
「えっ? 何?」
その少年はボソボソと独り言のように口を動かしている。だがしかし、瞳はしっかりと私を見据えたままだ。
「気付いちゃいけない。思い出したら駄目だっ!」
少年はそう言うとランドセルを左右に弾ませ、カーブの向こう側へ走り去った。
「なんだったの? 怪我は無かったの?」
心配して降りて来た文恵が、辺りを窺いながらスカートのシワを伸ばしている。
「怪我は全然……。でも、思い出したら駄目……とか言ってたな」
メニュー
メニュー
この作品の感想を3つまで選択できます。
設定されていません
読み込み中…