「危ないっ!」


土煙を上げ、タイヤがロックする。食い付きの悪い道路は制動時間をイタズラに長引かせた。


「……あの子、大丈夫だったかしら」


ようやく煙が収まった頃、文恵は恐る恐る顔を上げて言った。こんな田舎の、昼なお暗い林道に、小学校低学年だと思われる男の子が飛び出して来たのだ。


「いや、衝突した音がしなかったから、跳ねてはいない筈だ」


とは言え私はドアを開け、車外に躍り出た。


「あ……きゅ、急に飛び出したりしちゃ危ないじゃないか!」


私は驚かされたのも有って、大人げなく怒鳴り付けていた。


ランドセルの肩紐に両手を掛け、ジーパンにTシャツ姿の少年が、青白い顔でこちらを見ている。