(逃げないようにして、っと)


「あ、あの。助けて頂いてありがとうございました」



 少年は、男にしては高い声で感謝の言葉を述べた。



(やけに声が高いな。……この子、もしかして)


()が聞きたいのはそういうことじゃないんだが。……下がって。後始末を頼むから」


「え?」



 少年は不思議そうに眼を瞬かせ、小首を傾げた。


 これにはさすがに星鈴も(あき)れた目を少年へ向けるしかない。



「こんなに血が飛んでるのに、このままにしておけると思うか?」


(こんな現場、私だったら起き抜けに見たくはない。

 朝になって明るくなったら、大量の血が地面にぶち()けられてました。

 なんて、笑えない笑えない)



 こんな惨状(さんじょう)にしたのは自分であることを、星鈴は徹底的に横に置いて無視を決め込んだ。


 昔から言うではないか、都合の悪いことは見なかったことにして忘れるに限る、と。