見つめてはいけない。

目が合ってはいけない。

気づかれてはいけない。


あなたとすれ違うときは、いつもヒヤヒヤしてる。


高校3年の、夏。
そう、あと半年、隠し通せばいいんだ。


卒業すれば、もうわたしとあなたは会うこともなく、あなたはわたしを知らないままで、わたしはあなたを少しずつ忘れていく。

わたしはそれでいい。

お互いの記憶に残ってしまうような出来事はいらない。
消し去ることのできない思い出なんか、いらない。


電車に揺られうとうとしながら、そんなことを考えていた。

しかし、次の瞬間、わたしの目はパッチリ冴えてしまった。

次の駅に着きドアが開くと、彼が乗ってきたのだ。


や ば い 。


わたしは咄嗟に目を瞑って俯き、寝たふりをした。
あつい、あつい。
動かない体と、噴き出るような汗。
きっと顔は赤い。

目的の駅に着くまで、わたしは一度も顔を上げることができなかった。