咄嗟に目を閉じて
両手で顔を覆っていると…

あたしに吹き付けていた風が

ピタリと止んだ。


ふーっと息を吐いて

そっと目を開くと…



目の前には壁があった…


「んっ…?」


手を下ろして、よく見れば
それは…


もちろん壁なんかじゃなく


彼の体だった…



「悠…斗…?」


「おお…大丈夫か?」



彼は

滑り台の側面に両手を付いて…

トンネルを塞ぐように、
あたしの前に立ちはだかっていた。


あの風から…
あたしを守ってくれたんだ…


「ん…大丈夫。ありがと」


「いいよ、これくらい。

真優花を守るのは、
俺の役目だから…なっ?」


そう言いながら

体を少し前屈みにして

その優しい笑顔を
あたしの顔に近付けてきた。


ドキッ…

あたしは驚き、思わず俯いた。


ちょっと…

顔…近すぎ…なんだけど…


ドキドキして

顔が上げられないよ…


「真優花って…

いい匂いするなーっ」


「えっ!?」


「さっき、抱き上げた時も
思ってたんだけどさ…

なんか…
甘くて、いい匂いがする」


そんなこと言われても…

何て答えればいいの…?


「あ、ごめん…

こんなこと言われんの、
嫌だよな…?」


「嫌じゃないけど…」


「ねぇ。

何で…下向いてんの?
俺の顔…見たくない?」


「そ…そんなことないよ」


「じゃ…何で?」


そう言って彼は…
更に顔を近付けてきた。


「だって…」


何て言えばいいのか
わからなくて

黙っていると


彼は、パッと
あたしから離れた。


急に広がった視界の中では

さっきまでの風は
すっかり止んで


また、穏やかな空気が
流れていた。


「なんか…俺…

真優花の気持ちが
よくわからないんだけど


まだ…俺には

心、許せない…?


それとも、俺が…
スゲェ鈍感な奴なのかな…?」