泣き止んだ彼女を
部屋の前まで送った。


彼女は自分の部屋のドアに手を伸ばし、躊躇うように触れた鍵を持ちながら僕を振り返った。




『お茶でも飲んでかない…?』



僕は答えを躊躇った。




そんな僕の様子をみて
彼女は少しうつむいた。



なかなか何も言わない僕に
彼女の方から言われた言葉は
ひどく僕を惑わせるものだった。


『…そうだよね。
急ぐよね…』


彼女の声が震えていた。


『今日はいいよ…。

私も疲れちゃったし…。

また…、ら……』




彼女はいいかけてやめた。




『また来年行けば』
その言葉を飲み込んだんだろう。


でも来年も行けないかも…と

思って口にしなかったんでは…




僕はぽたぽたと流れ落ちてできた
彼女の涙の跡をみていた。



自分の彼女に
こんな思いをさせてまで
僕は百合のもとに行く意味はなんなんだろうか…。



僕がここで『今日は一緒にいる』
と言うのが正しい答えなんじゃないだろうか。






彼女の部屋を離れ
百合のマンションへ向かった。




マンション前の広場で百合の部屋をみると、まだ部屋は暗いままだった。



…まだ帰ってきてないか。



僕は携帯を取り出した。



電話帳を開き、
スクロールさせているうちに
彼女の名前が表示された。


しばらく手をとめていた。


…今日の今、いまさら彼女に何を伝えることができるのか。



僕は百合の番号を表示させ
何かを誤魔化すようにすばやく電話をかけた。