この人は全部解って側にいてくれてる。



いつも飲んでるお酒は
陽太が好きでいつも一緒に飲んでいた…



私はいつもそれを
あの頃の切ない愛しい気持ちで飲んでいた



でも、もう…

一年も思い出して飲んでると
あの頃のような愛しさも切なさも苦しさも…

あの頃のようには実感できないんだよ…

どんなに忘れるのが嫌でも
気持ちが、記憶がどんどん薄れていく…



幸森さんは何も言わない私に
何も言わずその優しい笑顔で見守っていてくれた。




なんで…?




幸森さんの目をじっと観る。



温かいなかに少しゆらめくものがある、
初めてじっと観たときにそんな目だと思った。



あの日から、いくら飲んでも酔えない気がしてた。


『あ…、何かおつまみ…』


急に思い立って立ち上がったので
少しよろけてしまったら


幸森さんが転ぶ前に抱き止めてくれた。


無言の数秒が、
何分かのように感じた。


煙草と香水の香りが混じって
”大人”な匂いを感じた。



『幸森さん…?』


意外と顔が近くにあって驚いた。

そうか…いつもは
適度な距離にいてくれたんだね。


『百合ちゃん…』


あと少しで唇が触れ合うような距離。

腕を支えられてる手に
幸森さんの熱を感じる。


私はそんな幸森さんを感じると

いつもどうしようもなくその手でメチャクチャにして欲しくなる。



『…好きにしてくれていいんだよ?』



一瞬、瞳が揺れたのがわかった。



でも一瞬で、次の瞬間には
いつもの優しい笑顔になってて



『他の人を想ってるのに?』



意地悪そうな顔で微笑む。



『……幸森さんって、
意外と意地悪でしょ?』



はは、と笑って
またあの優しい笑顔で私を見た。



幸森さんは優しいけど、
言うことはハッキリ言う。



アイツは優しいだけで…
いつも誰にも優しすぎて…



それは誰も大事にしないのと同じなんだよ…?



私は早く気づいて欲しいのに…